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フリーペーパー掲載エッセイ

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「おかん時間」に連載中の『子育てのまにまに』をはじめ、過去のフリーペーパーに掲載したエッセイを集めてあります。
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#友達

サンジュの友。

「今年、サンジュなの。」 「!?」 “永遠の二十歳”的なジョークかと思ったら、30ではなく傘寿だった。 娘と私の、歳の離れたお友達。 「いつもはね、友人とここへ来て瓶ビールをふたりで1本空けるのよ。  彼女、75でお嫁に行ったの。素敵でしょう。」 寿司屋でちらし寿司をつつきながらはにかむ笑顔がとてもチャーミング。 彼女はアートをやる。アートと暮らしている。 いや、その生き様がもはやアートだ。 「心が通うときは一瞬ね。お友達になれて嬉しいわ。」 美術館の企画展で浮かな

うなじの記憶

顎の下で切り揃えた髪が気づけば肩をくすぐるようになり。 書いたり描いたりしているとなんだか鬱陶しい。 えほんを3冊創ったら美容室に行く、という自分へのささやかなご褒美にはあとまだ1冊描かねばならない。 (今度は木村佳乃みたいなショートにしたい気分。) そんな訳で、恒例のひっつめ髪。 色鉛筆のシッポで頭を掻く。 後れ毛を毛束に埋める。 網戸から入る風が首筋をゆく。 ーそうか、あれは恋を失ったからじゃなかったんだ。 蘇る20年以上前の記憶。 遠足の砂浜。 ショートにしたア

あの鉄塔が見えたら

「いい?窓の向こうに山が見えるでしょ? あそこにね、小さな鉄塔があるの。 今はわからないと思う。見えたら教えて。」 その時、私は泣いていた。 ぐちゃぐちゃに泣いていた。 17歳。書道準備室。墨の匂い。 “不幸の館”。 彼女は自分の部屋をそう呼んでいた。 体操服の行列が外を走る掛け声。 ノー天気な青空。川の上を渡る風。 青春臭いものにうんざりして泣けてくる。 野暮な自分にも泣けてくる。 でもここには好きなものが在る。 墨の匂い。 先生らしくない先生。 醤油煎餅。 「