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空想綺譚抄

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夢と現のあわいで拾い集めた物語の欠片たち
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#詩

極夜の砂漠に立ちつくす

極夜の砂漠に立ちつくす 星の歌は諳んじているのに その詞を繙く術を忘れてしまった 流れ星たちの亡骸を踏みしめ 意味を無くした虚ろな旋律を口ずさむ 儚く描かれた風紋は何を語るだろう 空想綺譚抄 2022.5.2

春の街は華やかすぎて

春の街は華やかすぎて だから静かな雨の日は心が躍る とっておきの傘とレインコートでお出掛けしましょう お気に入りの長靴でリズムを刻むの アン・ドゥ・トロワ アン・ドゥ・トロワ 今日はワルツのリズムで アン・ドゥ・トロワ アン・ドゥ・トロワ くるりとピルエットも軽やかに 空想綺譚抄 2022.3.24

春の嵐は強いられた歓喜の副作用

春の嵐は強いられた歓喜の副作用 隠した不安は疾風(はやて)になって 堪えた涙が雨になる 優しい春の嵐よ 溶け残った憂鬱をかきまぜて 桜の花と吹き去ってくれ 空想綺譚抄 2022.3.31

ほろ苦い桜のカクテル

ほろ苦い桜のカクテル 溶け残った憂鬱も飲み干して 空想綺譚抄 2022.3.31

白昼霧の単独飛行

白昼霧の単独飛行 ミルクのような濃夢でレーダーはホワイトアウト 視程は絶望 不機嫌な航法装置は考えるのをやめた 星の唄も聴こえない 空間識失調で夢と現のあわいに墜落 救難信号が虚ろに響いてフライトレコーダーは意味消失 だれかみつけてくれるかな 空想綺譚抄 2022.3.19

傘を叩く雨の音が

傘を叩く雨の音が レコードのノイズみたいで心地よかった ここは僕だけのオーディオルーム 隣から懐かしい君の声がきこえたような気がして 僕は名犬ニッパーのように耳を傾ける 雨よどうかやまないで もっとこの声をきかせてくれ ―哀愛傘 空想綺譚抄 2022.3.18

白昼夢の飛行計画

白昼夢の飛行計画(フライトプラン) 濃霧 視程は最低 シグメット 空気は帯電 上空は嵐 プリフライト 航法装置はご機嫌斜め アストロラーベはどこだ 嗚呼もう行かなきゃ 地面が消えてしまう 空想綺譚抄 2022.3.14

夢と現の狭間のクレバスで

夢と現の狭間のクレバスで 宙吊りになってもがく 絡んだザイルが首を絞めつける 空想綺譚抄 2022.3.12

廃墟の楽園

廃墟の楽園 塔の跡地に築かれようとした寛容の都の遺構 呪いが祝福へと昇華されようとしていたのに 一握りの裏切り者たちの為に 希望は打ち砕かれ 塔の呪いは再び世界を覆った 未完の理想郷は打ち棄てられた もう誰も居ない 空想綺譚抄 2022.2.25

氷雨に滲む街の灯りをひとしずく

氷雨(ひさめ)に滲む街の灯りをひとしずく 凍てつくソーダにとかして乾杯 空想綺譚抄 2022.2.20

雪原に浮かび上がった風紋の

雪原に浮かび上がった風紋の 儚い波形に君の声を探す 空想綺譚抄 2022.2.18

久しぶりの雨の気配

久しぶりの雨の気配 清々しい風に心がざわめいた やがてここも沈むだろう 静かに潜行準備をはじめた 空想綺譚抄 2022.2.15

長夜の散歩道

長夜の散歩道 西の空には大きな羊 青天鵞絨に浮かぶ物憂げな瞳が 執拗に問いかけてくる 合わせた目を逸らすことができずに立ちすくんだ 吹きすさぶ寒風が頬を切りつけていなければ 狂気に攫われそうだ やがて流れてきた薄雲が視線を遮り 我に返った 動悸はまだおさまらない 空想綺譚抄 2022.2.5

土砂降りに沈む四畳半は

土砂降りに沈む四畳半は湖底の潜水艇 レコードの幕間のような 甘い静寂に身をゆだねる 降り続く雨よ どうかやまないで 私を閉じ込めて 空想綺譚抄 2020.6.30