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空想綺譚抄

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夢と現のあわいで拾い集めた物語の欠片たち
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#窓枠水槽

土砂降りに沈む四畳半は

土砂降りに沈む四畳半は湖底の潜水艇 レコードの幕間のような 甘い静寂に身をゆだねる 降り続く雨よ どうかやまないで 私を閉じ込めて 空想綺譚抄 2020.6.30

逃げ出した風鈴を探しに

逃げ出した風鈴を探しに 潜水服を着込んで ベランダの窓を開ける 勢いよく流れ込む水によろめいた 水没した部屋からひゅるりと飛び出した ぬいぐるみの鱏が水先案内人 空想綺譚抄 2020.6.12

梅雨が明けるのを

梅雨が明けるのを待ちきれずに 窓辺に吊るした お気に入りの硝子の風鈴 降り続く雨をどんどん吸って 海月になってゆらゆらと 何処かへ行っちゃった 空想綺譚抄 2020.6.9

ふと学校帰りの

ふと学校帰りの子供たちの喧騒が遠のいた 窓に目を向けると ショパンの音色に魚たちが泳いでいる 驟雨に閉ざされた四畳半は 湖底に取り残された潜水艇のようで 少し心細い 空想綺譚抄 2020.5.1

静かな五月雨の中に

静かな五月雨の中にふと気配がした 水煙に泳ぐ鯉に連れられて ひさしぶりだねと笑う君 濡れ縁に座る彼女は湖から帰らなかったあの日のまま このまま雨が上がらなければいいのに 溺れそうになりながら そう願った 空想綺譚抄 2020.5.16

小気味よい雨垂れに

小気味よい雨垂れに身をゆだねてまどろむ 気づけば湖底を行く列車に揺られていた 車窓に見えるのは古代の遺跡か淡水魚たちの寝殿か ――切符を拝見 大鯰の車掌が改札に来た ―湖底急行 空想綺譚抄 2020.5.16

すっと照明が暗くなり

すっと照明が暗くなり 窓の外は淡水魚たちの小演奏会 演目はヴィヴァルディの『夏』第三楽章 気がつけばここは湖底のコンサートホール 空想綺譚抄 2020.5.19