見出し画像

クリスマス・イブ

街にイルミネーションが灯る、
12月。
気忙しさと、新年に向けて加速がつき
高揚感も同居する月。
この時期になるといつも、
思い出すクルマがある。



「“ ZERO CROWN”
かつて、このクルマは
ゴールだった。今、このクルマは
スタートになる。」
このキャッチコピーで
“ ゼロクラ”の名がついた、
TOYOTAの180系クラウンである。



若干20歳のクリスマス・イブの日。
ある男性から
「イタ飯、行っか。」と誘われた。
わたしもその時初めて知ったが、
イタ飯、というのは
「イタリアン」のことであり、
どうやらある一定の年齢層は
「イタリアン」のことを
イタ飯、と表現するようであった。



待ち合わせ場所に来るも、
その男性…が見当たらない。
周囲をきょろきょろしていると、
パールホワイトのセダンの窓が開き
手を振られた。



「え。いつもとクルマ、違いません?」
呆気にとられるわたし。
見た目からすぐに
クラウンであることが分かった。
クラウンがそれなり、の
クルマであることは
当時のわたしも分かっている。
1983年から1987年にかけて
7代目クラウンのキャッチコピーとして
「いつかはクラウン」と謳われ、
昨今はその頃より敷居が下がった
クルマのひとつであるが、
20歳のわたしには新鮮だった。
「知り合いから借りてんて。保険?
ちゃんとかかってるから。」
そのまま、クラウンに乗って
繁華街の中のイタ飯、に向かった。



失礼ながら、
クラウンに乗れたという高揚感で
ふわふわしていたわたしは、
食事内容は明確に記憶していない。
ただ、大きなチーズのくぼみで
クリームソースと絡めたパスタは、
目の前のパフォーマンスも相まって
とても美味しく感じた。
後から調べると、あの大きなチーズは
「ピアーヴェ」と言うらしい。
記憶をたどりながら、
「チーズ 絡める パスタ」だなんて検索して
すぐたどり着けるのは有難い反面、
その時の記憶の定着率を
下げている気もして切ない。



帰路は、そのクラウンを
運転させてもらうことになった。
クラウンに乗っただけでも
かなり高揚したわたしだが、
運転させてもらえることが
何よりも嬉しかった。
所々ウッド調で高級感のある内装。
サスペンションは上品で、
当時比較的ヤンチャなクルマしか
運転したことのなかったわたしは、
別の乗り物を運転しているかのような
錯覚に陥った。
軽さがなく、だからといって重くもなく
重厚感、という言葉が
似合うステアは
20歳のわたしに対して
「まだ早いよ」と敬遠するかのような
雰囲気を感じた。あくまでも主観である。



あれから、今年でちょうど
15年の歳月が過ぎた。
そして奇しくも今年、
クラウンのセダンは新型となった。
だが、乗る乗らないは別にしても
クラウンをスタートとするには、
まだまだ自分自身が未熟だと感じる。
もう一度言う、が。
乗る乗らないは別にしても
胸を張ってクラウンと
並べるようになりたい、と
今年のイルミネーションを見て
思ったのであった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?