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IMPREZA DREAM(後編)

※画像は納車時のWRX STIです


それから時は流れ、
2014年初夏。



インプレッサが
マイナーチェンジによって
WRX STIとWRX S4へ、
そしてインプレッサと
車種を分かつことを知る。



当時中古のインプレッサWRX
-2代目後期の
ホークアイヘッドランプ型-
を探していたわたしは
その情報を知るやいなや、
SUBARUのディーラーに
駆け込んで開口一番、言った。



「WRX STIはいつ売られますか?」


女性が来たから良かれと思って
受付嬢をあてがわれたようだが
狼狽えた彼女は、
「上の者を呼びますね」と
年配の営業マンを連れてきた。



「WRX STIが欲しいです。」



きょとんとした営業マンの顔が
そこにはあった。



「ありがとうございます。
ええー、ただですね、まだ
わたしども販売店の元にも
まだ詳細情報が
降りてきてなくてですね…」



恐らく、営業マンは
小娘が新車情報を
知っていることに
戸惑っているわけではなく、
6MT、2リッターターボ
308馬力、決して安くはない
WRX STIを中身も見ずに
本気で買おうとしている
わたしの姿に
内心、大丈夫か?と
戸惑いを隠せなかったのだろう。



「では、また資料が揃ったら
連絡してもらっていいですか?」
「はい。ではこちらに
お名前とご連絡先を…」



それからしばらくして
連絡が入り、
契約の運びとなった。



ボディーカラーは、
フラッグシップの
WRブルーマイカにする気で
いたものの、
純正のSTIエアロが
ブラックだったが故に、
クリスタルブラック・シリカに決めた。



その後は念願のクルマに
乗れるという高揚感と、
今、一番乗りたかった
憧れのクルマを
手に入れてしまったら、
以降はどんなクルマに乗れば
いいのだろう、という
虚無感が同居していた。



納車は、2014年9月1日だった。



諸手続きを済ませ
クルマのもとに案内されたわたしは
身体中に心臓があるかの如く
どくん、どくん、と
震えているのを感じた。
空気が薄い。深呼吸しよう。
深呼吸した。晩夏なのに
血管が収縮して冷たくなった
手指。これは夢?
目の前に、憧れのクルマがある。
母校で見たインプレッサが
目の前の愛車と重なる。
マンガみたいに頬をつねる。
こんなベタなことをする事態に
遭遇するなんて。
でも、ああ、夢じゃない。



ここまで気分が
高揚したのには、
もうひとつ理由があった。



「働かざる者食うべからず」
を、口癖のように発する父親と
「お父さんが働いてるから…」
と、我慢ばかりしている母親を
見て育ったわたしは、
とにかく自立することを
最優先事項として生きてきた。



同級生が大学で
遊び回っている頃に結婚し
21歳、22歳で出産し、
戸籍を汚し
当時は文章の仕事を受けつつ
介護士として病院で
フルタイム勤務し、
夜は片町で働いていた。
その数年後に看護学校を受験し
看護師免許を取得するとは
夢にも思わなかったが。


誰にも指図されず、
自分の意思で、
自分の欲しいものを手に入れる。



WRX STIの納車日は
大きな〝自立〟を感じることが
できたのであった。


WRX STIのリアウイングは
自由への翼となり、
以降も人生の
ターニングポイントで
わたし自身を鼓舞してくれた。


7年後に手放すことになったが、
2014年9月1日に感じた気持ちは
今後どのようなクルマを買おうが、
再度買えるものではないだろう。

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