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カペーSQのベートーヴェン第15番

https://www.youtube.com/watch?v=0k5yvDZyni0&t=2058s
カペーSQ  ベートーヴェン:弦楽四重奏曲第15番イ短調 作品132
日Columbia 33rpm 復刻盤 1928年10月8日~10日

このイ短調カルテットは、ベートーヴェンが亡くなる僅か1年半足らず前の最晩年に作曲された最高傑作のひとつである。序奏付きの第1楽章を含み(緩・急)-(急)-(緩)-(急)-(急)の5楽章形式で構成されるが、作曲の途中、ベートーヴェンは病に倒れ、暫し中断した後に書かれた緩徐楽章である第3楽章に比重が置かれているようである。

このレコードについては、SPレコード時代に日本に輸入されたメタルマスター使用による唯一の復刻盤である旨の説明記事が添えられていたのを見たことがある。でもジャケットの解説書にはそのことには一切触れられていない。残っているタスキの裏面の表記やジャケットのプレス時期の表示から見て推す限り、昭和46年の初頭から初夏にかけて刊行された復刻盤のようである。

楽器群のニュアンスなどに耳を傾けると無用なノイズリダクションの痕跡はない。
過去に「輸入メタル原盤使用」などとハッキリ謳われたLPレコードを何十枚も聴いてきたが、これほど明瞭な響きでしかも弦楽器特有の弾むようなニュアンスが心地よく聴き取れる復刻盤にお目にかかったことはまずなかった。SPレコードを直接聴いたときの瑞々しく素晴らしい音の感動はこれまでしばしば述べいたが、これは、復刻盤により96年前の録音技術はやはりここまで進んでいたのか、と改めて感心させられる一枚であった。

主宰者リュシアン・カペーはフランスのヴァイオリン奏者であり、SQの結成当初はコンセール・ラムルーのコンサートマスターも務めた。指揮者シャルル・ミュンシュは、若き日にパリ音楽院でカペーにヴァイオリンを学んだ。

カペーSQは1893年に結成され、その後、第1ヴァイオリンのカペーを除くメンバーは幾多の変遷を経て1919年頃に最終メンバーが確立される。しかし、1928年12月のカペー急逝によりこのSQは解散する。僅か12曲の奇蹟的な電気録音が彼の死の年、1928年6月と10月に集中して遺されているが、カペーの遺言のようなものである。曲そのものとその即興的な演奏表現、雅楽を思わせるような荘厳な響き、澄みきった音色は、もはや神の領域であり、異次元の世界である!

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