保険適用開始の抗原検査 (NOT抗体検査)キットの特徴は?

5月13日、新型コロナウイルス感染症に対する抗原検査キット (富士レビオ社)の承認と保険適用が認められた。医療保険での検査費用は1回あたり6,000円 だが、医師が感染を疑った状態での検査は自己負担は発生しない。

なお、後述の通り対象となるのは「患者であることが疑われる者」に限られる。なおかつ、PCR検査に置き換わるものでもない。症状が出ていない人に対して広く検査するような使い方は「適さない」と明示されている。

基本的なところだが、抗原検査は名前の似ている抗体検査 (感染後しばらく経ってできた抗体を検出するもの、過去の感染歴を見る)よりも、むしろPCR検査 (今まさに感染しているかを見る)寄りの検査。インフルエンザの簡易検査は、抗原検査の一種である。

資料 (中央社会保険医療協議会)はこちら「新型コロナウイルス感染症に係る保険適用に伴う対応について」が該当資料。

PCRとどのくらい一致した?

資料で引用されている臨床試験は2つで、いずれもPCRの結果を正解として、PCRとの判定結果の一致度合いを見るもの。

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陽性一致率 (PCRで陽性になった検体が、抗原検査でも「ちゃんと」陽性になる割合)は、全サンプルだと1つめの試験で37% (10/27例)・2つめの試験で67% (16/24例)とやや低い。陽性一致率が低いことは、見逃し (偽陰性)が多く出ることを意味する。

ウイルス量が多ければ、「正解」が出やすいが…

そのため、両試験ともにウイルス量の多寡で切り分けたデータを検討した。ウイルス量が多ければ多いほど、検査に引っかかる(すなわち陽性になる)可能性は高くなることは自然である。これを踏まえて、「一定量以上のウイルスを有する検体に対して約8〜9割の陽性一致率」の評価がなされ、

RT-PCR法と比較して感度は低いものの、陽性判定をもとに感染診断を行うことの臨床的有用性を期待できる。」

「現時点で、…迅速かつ簡便な検出が可能な体外診断用医薬品は存在しないこと…迅速な拡充が求められていること」より、

1) 実臨床での臨床性能を検証する
2) 偽陰性の可能性を情報提供する
3) 陰性例にもPCR検査の実施を検討する

ことを前提に「許容可能」と結論している。

「無症状者に対する使用は不適」のガイドライン

PCRに比べて見逃しが多いことを踏まえて、抗原検査キットの使用ガイドライン が議論された。

この中で、PCRと比較して一定以上のウイルス量が必要(そうでないと見逃しが多発する)ことを踏まえて、「(検査前確率=検査する前に見込まれる、「どのくらい感染してる可能性がある?」の数字) 無症状者に対する使用、無症状者に対するスクリーニング検査目的の使用、陰性確認等目的の使用は、適切な検出性能を発揮できず、適さない。」と明示されている。ウイルス量が少ない可能性が高い無症状者は、そもそもこの検査は見逃しの可能性も大きく、適切でないという判断だ。

抗原検査陰性=「感染なし」ではない

あわせて結果の解釈の項でも、

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除外診断 (陰性→感染していないと判定)には適さないことを明示した。すなわち、抗原検査で陰性であったとしても、「感染していない」ことの証明には使うべきでないという判断である。

この検査で陽性ならば「感染あり」としてよいが、陰性の場合は医師の判断においてPCR検査を行う…としている。

抗原検査はPCRに比べて迅速(資料によれば30分)な評価が可能だが、PCR検査を置き換えるものではない。「全住民検査」のような使い方は見逃し例を多発させることになり、そもそも想定されていない。

長所と短所を正しく把握しつつ、(野放図ではなく)3つの検査のすみ分けを進めていくことが重要である。

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