4/13 ドイツ疫学研究 (Heinsberg, Gangelt)への限界・批判的吟味まとめ (英国・ドイツの記事)

4/11のHeinsberg (Gangelt)研究に対し、研究の限界あるいは批判的吟味の記事が出ている。4/11の発表は「未査読で州政府のページに発表された」状態なので、研究の限界その他は発表中では触れられていない。ここでは英Science Media Centerの"Expert reaction to unpublished preliminary findings looking at the presence of antibodies to SARS-CoV-2 virus in residents of Gangelt, in Germany"の記事と、独Zeit紙の"Kritik an Corona-Studie aus Heinsberg"の記事の要点を紹介する。

Science Media Centreの記事は、研究に対する英国の専門家3人のコメントを紹介するもの
 Prof. Simon Clarke (Associate Professor in Cellular Microbiology, University of Reading)
 「14%が抗体を保持しているという結果は非常に興味深い (interesting)が、この事実は発表が示唆するような『14%が免疫を持っている』ことを証明するものではない。抗体を持っていること自体はもちろんよい徴候だが、そのことだけでは免疫保持の証明にはならない。免疫の有無や、その免疫がいつまで続くかは不明である」
 Prof. David Heymann  (Professor of Infectious Disease Epidemiology, London School of Hygiene & Tropical Medicine)
 「Gangelt研究での抗体検査が、SARS-CoV-2以外の他のコロナウイルス (一般的な風邪の原因になる4種と、SARS-CoV-1やMERSCoV)を検出していないかが重要だ。また、SARS-CoV-2以外のコロナウイルスで、抗体を持っていても再感染がおこることが報告されているが、SARS-CoV-2の免疫反応がどうなるかは未知である。Gangelt研究の著者らは集団免疫の成立も見込んでいるが、結論を出すには長期の免疫持続可能性などを明らかにする必要がある。」

 Prof. Keith Neal (Emeritus Professor in the Epidemiology of Infectious Diseases, University of Nottingham)
 「多くの人が抗体を持っていること、推定全死亡率が現時点の数値よりも低くなることはグッドニュース。もっとも、研究結果(の信頼性)は、行われた検査の質に大きく依存する (註: Gangelt研究での検査手法については、発表資料中の「特異度99%以上」の記述以外は不明)。類似の研究を他のフィールドでも実施することが重要。英国Porton Down Labで実施されているような抗体検査の結果を、逐次公表する必要がある」

ドイツZeit紙の記事

インタビュー記事でなく、Zeit紙のエディター・Florian Schumann氏とDagny Lüdemann氏の記事。Schumann氏は医学を、Lüdemann氏は生物学を専攻しているとZeit紙の紹介にある。以下、抄訳(Zeit紙の情報量には正直感服したところ)。

抗体検査の問題点

・英国の記事でも言及のあった、SARS-CoV-2以外のコロナウイルス、特に普通の風邪を起こすコロナウイルス (Helmholtz Center for Infection Researchの研究では、風邪全体の1/3がコロナウイルスによるもの)との混同可能性について、Gangelt研究のプレスカンファレンスでは情報がなかった。
・Berlin Charitéのウイルス学者Christian Drostenは、SARS-CoV-2への感染がない患者でも、季節性のコロナウイルス (4種)に対する抗体があれば、今回の検査で陽性になる可能性を指摘している。 
交差反応 (SARS-CoV-2以外のウイルスへの抗体を検出している)の可能性がある場合は別途確定検査が必要になるが、それに関する情報はない。交差反応が起きていれば、実際にSARS-CoV-2の抗体を持っている患者の割合は15%より小さくなる。
Zeit紙は研究代表者 (Dr. Hendrick Streek)へ電話インタビューを行った。Streek氏は、「抗体はEuroImmun社のものを使用している (註: EuroImmunサイト)。SARS-CoV-2以外の抗体で偽陽性になる可能性が5-10%程度あれば問題になるが、特異度は発表にもあるように99%で、偽陽性の影響は小さい」と回答した。しかし現時点で、Euroimmun社からの確定的な情報はない。
・Christian Drosten氏らの研究チームは、EuroImmun社の開発中の抗体の感度・特異度を評価する研究を実施している (註: Okba et al, Emerging Infectious Disease 2020). この中では、通常の風邪を起こすコロナウイルス (HCoV-OC43)の抗体を持つ患者2名が、検査で偽陽性になったことが報告されている)。標本数は小さいが、交差反応の可能性を完全に除外できるかは未知である


「15%陽性」の問題点

・疫学者のGérard Krause氏は、「家族内で感染が起こりやすいことを考慮すると、陽性率は人数単位でなく世帯単位 (1世帯あたりの患者数は1人)でカウントしないと過大評価になる(すなわち、実際の陽性率よりも高い数値になる)ことを指摘した。なおStreeck氏は、世帯単位の分析も準備中と回答した。

PR会社の関与・ドイツ全体への適用可能性

・今回の記者発表は、PR会社 (StoryMachine)がアレンジして実施されたものであり、それによってSNS・メディアでも大きく拡散することになった 。Streek氏は、電話インタビューで「Streek社の共同設立者Micheal Mronz氏からの呼びかけに応じたもので、自身およびボン大学からPR会社への支払はない」と回答した。
・「社会的隔離を緩和すべき」という研究結果がHeinsbergのみに適用可能なのか、あるいはドイツ全体に適用すべきなのかの言及がない。
・現段階では、ドイツ全体あるいは研究を実施したNordRhein-Westfaren州いずれも、制限を緩和する動きは見られていない(註: 13日月曜日まではイースター休暇)具体的な政策を考慮するためには、さらなる情報が必要である。










この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?