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ファイザーワクチン・95%とは?

いくつかリクエストをいただいたので、Modernaと同じ様式でPfizer社のワクチンの結果をまとめてみよう。

11月9日の段階で「94例発症確認時点での結果をまとめた中間解析結果 (90%以上有効)」が出され、11月18日に「162例発症確認時点での有効性に関する最終解析結果 (95%有効)」が出ている。

臨床試験登録サイトの情報はこちら。企業が公開している臨床試験プロトコルはこちら

有効性に関するPECOは、以下の通り (臨床試験登録サイトの"Primary Outcome Measures" の19番と20番)。

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臨床試験登録サイトでは、「試験参加前にSARS-COV-2感染がなかった人 (19番)」と「感染あり・なしの両者ミックス(20番)」それぞれを別々に評価するとあるが、企業のリリースでは「どちらの集団でも95%以上のワクチン効果が得られた」と述べられている。170人の発症者のうち何人が「感染経験あり」だったかは、情報がない。

なお改訂されたプロトコルでは、「投与終了後7日目から2年目までの発症をカウントする」方法に加えて、「投与終了後14日目から2年目までの発症をカウントする」評価法も追加されている。

有効率95%とは?   -「140人投与で1人助かる」-

モデルナのワクチンと同様に、「ワクチンを打てば95%の人はかからない!」「ワクチンを打っておけば、感染しても95%の人は無症状ですぐ治る!」のような意味では決してない

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上のように、
「打たなかったら1万人中75人感染 (0.75%)。
 打ったら1万人中3人感染 (0.04%)で、75-3=72人の感染を防げる。
 だから、72÷75=95%有効」
という計算である。

割り算でなくて引き算をすると、感染率の差は0.7%。1万人あたり72人だから、
「1万人÷72=140人に投与すると、感染者をちょうど1人減らせる」が解釈できる。

細かく言うと、単に感染者数を数えるだけだと「ワクチンを打った群は2万人を1ヶ月追跡していた。ワクチンを打たなかった群は、2万2000人を3ヶ月追跡していた」のように、人数や追跡期間が変化すると公平な比較が不可能になる。そのため実際の計算では、同じ人数を同じ期間追跡したときの数値に修正して (人年法)数字を求めている。もっとも、単純に割り算しても数字は95%になるので、人数や追跡期間に大きな差はないと考えられる。

なぜ、今公開された?

これもモデルナと同様、プロトコル内で「一定以上の有効性が得られた場合は、その段階で一旦「高い有効性 (overwhelming efficacy) が示された」と判断して、有効性の解析を行う」という条件が付されている。

基準となる数字は、11月8日の中間解析 (62例発症)で68.1%, 最終解析 (164例発症)で52.3%。この数字を直近の推計が上回ったので、「高い有効性がみられた」として解析が実施されたことになる。

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現時点で分からないことは?

さきほど述べたように、今言えることは「短期間での感染を防ぐ効果があった」ことに限られる。実際、臨床試験そのものがここで終了したわけではなく、長期 (2年間まで)の感染抑制効果や、安全性を評価するためのデータ収集は引き続き実施される。企業のリリースのタイトルも、"meeting all Primary Efficacy  endpoints (有効性に関する主要な評価項目をクリアした)であり、安全性や長期の有効性についてのデータは当然ながらまだ整備中である。

有効性だけでなく…

他の状況(例えば、日本)にこのデータを当てはめられるかどうか?を見るときに、「基礎疾患のある人に有効?」「高齢者に有効?」「日本人やアジア人に有効?」のような、有効性データの「当てはめ可能性」はよく議論される。このような要素が大事なのはもちろんだが、ワクチンを含めた予防の場合は「そもそも何人が発症するの?重症化するの?」がカギになる。

感染を100%防げるワクチンがあったとしても、その病気に誰もかからないのならば、優先順位は下がる。有効率の計算は「割り算」で求めているから、もともとの人数の情報は消えてしまう。

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上の図のC、すなわち「打っても打たなくても発症しなかった人」がどのくらいいるかで、ワクチンの効率性は大きく変わる。「有効率95%」はとても大事なデータだが、他に考えるべき数字も、まだまだ多く残されている。

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