イスラエル・世代間の比較からみたワクチン効果?
イスラエル政府が公開しているコロナ関連データを使って、60歳以上とそれ以下に分けて感染者数・ワクチン接種割合を描いた (この後紹介するプレプリント論文のグラフを再現したもの)。感染者「数」は60歳未満のほうがはるかに多いため、60歳未満と60歳以上で軸を変えている。
年齢層に関わらずほぼ同じ挙動を示していた感染者数のグラフだが、1月半ば以降は60歳以上の減少が大きい。もともとの感染者数が60歳未満>>60歳以上であるため、全体の陽性者数の推移からは捕捉できない変化である。
ワクチンの接種割合は、当初高齢者から始まったこともあり、60歳以上とそれ以外とで大きな差がある。
あくまで間接的な評価だが、年代別の感染・重症化状況の変化からワクチンの有用性を見積もったプレプリント (査読なし)が発表された。
陽性者数や入院数の公表データからは、個々人のワクチン接種状況に関する情報は得られない。(註: 政府のサイトには、2月以降ワクチン情報を追加する旨の記載あり)次善の策として、「接種割合の高い60歳以上のデータ」と「接種割合の低い60歳未満のデータ」を比較することで、ワクチンの効果を評価したものである。
論文のFigure 2が上の図。Aが陽性者数・B,C,Dが入院者数の推移である。全入院がB, 中等度以上の入院がC, 重症入院に絞ったのがDとなる。
どのグラフを見ても、60歳以上の集団では、それ以下の集団よりも直近の減少幅が大きい。
前回のロックダウンと比べると?
「高齢者はもともとロックダウンの影響を受けやすいのでは?」の可能性を検討するために、前回のロックダウン時期と比較した (Figure 3)。縦軸は新規感染者および新規入院者に占める高齢者の割合である。
茶色の前回のロックダウンでは、高齢者の割合 (紫色)はむしろ増えている。一方で今回は、ロックダウン実施 (ゼロ日)後、高齢者の割合はゆるやかに減少している。
地域性は?
イスラエル全体を1385の地域に分けたうえで (1地域あたりの人口は平均3000人)、60歳以上の人口が500人以上の1148地域から、接種率の上位400地域を「早く接種した地域」・下位400地域を「遅く接種した地域」と定義して比較した。
Figure4が結果で、「早期接種」地域のほうが、60歳以上の低下度合いが大きくなっている。
研究の解釈と限界は?
年代による差が、ワクチン接種の早い地域でより顕著に出ていること・前回のロックダウンでは観察されなかったことの2点から、ワクチン接種が感染抑制や入院・重症化抑制に関与していることが示唆される。
ただし、これまでのワクチン効果に関する研究と比べると、感染者数や重症者数が下がり始めるのはやや時間がかかっている (おおむね21日目以降)。この点について筆者らは、現場にワクチンを供給する際のインフラの問題や、変異株の存在に加え、あくまで可能性ではあるが「ワクチンを接種された人が、マスク着用や距離の確保などを守らなくなったため、感染リスクが増大した」ことを指摘している。
もちろん最初に述べたように、個別の接種歴のデータは得られていないため、「接種者」と「非接種者」の直接比較ができていないことは大きな限界として残る。
もっとも、実世界のデータで「ワクチン接種開始後」のみ明確なトレンドの変化が観察されたことは興味深い。イスラエル政府公表データも今後随時更新されていくはずなので、チェックは続けていきたい。
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