見出し画像

イベルメクチン・コクランレビューの結果は

さまざま話題になっているイベルメクチンのCOVID-19に対する予防・治療効果について、コクランレビューが公開された。

コクランレビュー???

コクランレビューは、「自前で臨床試験を行う」ものではなく、「予め定めた基準によって質の高い臨床試験を集めてきて、その結果をまとめて一つの結論を出す」スタイルの研究。

「予め…臨床試験を集めて…まとめて…結論を出す」ような研究を、システマティックレビューもしくはメタアナリシスと呼ぶ(うるさくは、「きちんと基準を定めて集めてくる」までがシステマティックレビュー。「集めた結果をまとめて、量的に一つの結論=数字を出す」がメタアナリシス)。

コクラン(旧称:cochrane collaboration, コクラン共同計画)は、ちゃんとしたシステマティックレビューをやるべく、専門家が集ったグループ。システマティックレビューそのものは誰でも実施できるが、コクランが実施したシステマティックレビュー=コクランレビューは、ある程度「質が高い」と推定される(もちろん、コクランだから絶対に正解!というわけではない)。

結果は?

コクランによる、イベルメクチンの治療効果のまとめはこちら (原文5-8ページのまとめ表から再構成)

スクリーンショット 2021-08-02 23.19.47

プラセボとイベルメクチンとで、患者1,000人あたりに換算したイベント発生数が表示されている。なお予防効果はRCTが1本のみで、なおかつプラセボ・イベルメクチンどちらにも死亡が発生しなかったため、「推計不可能」とされた。

イベントの人数をみると、外来ー重症化以外の4つのものさしでは、決め打ちの値ではプラセボの数字>イベルメクチンの数字となり、イベルメクチンが有効に見える。しかし幅を持たせて見積もると(カッコ内)数字は逆転し、どのものさしでも統計的には「イベルメクチンによって改善するか悪化するかまだ分からない」状態である。比で見たときにも、幅をもたせると1.0倍をまたいでしまう。そのため、例えば入院死亡であれば「0.14倍に改善するかも知れないし、2.51倍に悪化するかも知れず、増えるか減るかはまだ分からない」となる。

イベルメクチンは有効だったはず…では???

先に述べたように、システマティックレビューはコクランの専売特許ではない。実際過去に報じられたように、イベルメクチンについていくつかのシステマティックレビューがすでに実施されている。かつ「イベルメクチンがリスク(死亡・重症化)を下げる」という結論のものもある。

コクランレビューでは、過去の「リスクを下げる」と結論したレビューを参照しつつ、結論が変わった理由を議論している。結論が変わった理由は、論文の取捨選択の基準が異なったからである。コクランレビューによる「論文の取捨選択基準」は以下の通り。 (論文本体p33のディスカッションから)

スクリーンショット 2021-08-02 23.32.19

イベルメクチンが「有効」と結論した過去の3研究 (Bryant, Kory, Hill)と比較して、コクランは採用論文の数が少ない (外来と入院それぞれ2報ずつ)。また、採用された論文は被験者の数が少ないため、統計的な有意差はもともと出にくい状況にある。もちろん「統計的な差を出しづらくする」ために論文を絞ったのではなく、

「他剤と併用せずに、イベルメクチン単独の試験を使う」
「イベルメクチンvs別の薬ではなく、プラセボと比較した試験を使う」
「コロナ陰性者を試験に含んでいない」

などの基準でふるい落としていた結果として、論文が他のレビューと比較して少ない件数になったことが述べられている。

コクランは入院と外来それぞれ2本ずつで数字を出しているが、仮に両方をまとめて計算すると、下のようになる。(4本でなくて3本なのは、1本 (Chaccour)が「両群ともに死亡ゼロ」のため)

スクリーンショット 2021-08-02 6.41.12

最下段のひし形◇が、縦線(1.0倍=両群のリスクは同じ)をまたいでいる。幅を持たせた値が0.24 - 1.71で、「うまくすれば0.24倍に減る(死亡しにくい)が、最悪だと1.71倍増える(死亡しやすい)」ということで、やはり統計的には「どちらかまだ分からない」という結論になる。

イベルメクチンについては、当初の計画からは延長されているものの以下のような医師主導のRCTが日本でも進行中である。少なくとも、このRCTや治験(企業実施)の結果を待つことは必要だろう。

https://jrct.niph.go.jp/latest-detail/jRCT2031200120



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?