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献血検体を使った複数の抗体キット評価 (N=500)、ばらつき大きく紛れ込みの影響排除できず?

TBSが第一報、他社も後追いした「献血検体を用いた抗体検査キットの評価」。

2020年4月の献血者について、感染者の多い東京と、感染者の少ない東北6県の検体を抽出。さらにより「カタい」比較対照として新型コロナウイルス感染症の流行前 (2019年1-3月)の献血者の保存検体も加えて、500×3=1,500検体について抗体検査を実施した。

もともとの目的は、研究課題としては「抗体検査に使用する測定キットの信頼性を評価する研究」であって、「有病率や患者数の推計」などは、研究紹介のページにはとくに言及がない。

検査結果は?

結果の公式発表はこちら。

5社の抗体検査キットを比較し、うち2社 (C社・E社)では上記のような500検体×3の検査を実施した。残り3社のキットは、東京と東北6県で45例ずつの比較にとどまる。

もともとの陽性者が少なく、検体数の多いC社・E社の検査はともに
東京で500人中2人・東北で500人中1人。なおかつ、新型コロナウイルス感染症が存在しないはずの2019年の検体でも、C社で1人・E社で2人が陽性となった。

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2019年検体で陽性になっているa''とb''は、自然に考えれば紛れ込みの偽陽性。風邪のコロナウイルスを検出しているなど、さまざまな可能性がある。

500人中1人 (0.2%)や2人 (0.4%)程度の紛れ込みは、他のキットでも起こる。

カリフォルニア州の検査で使われたキットは500人中2.5人 (0.5%)、ロシュ・ダイアグノスティックス社の最近承認されたキットは500人中0.95人 (0.19%)、ドイツの感染多発地Gangeltで使われたキットは500人中4.5人 (0.9%)である (いずれも企業のデータ)。

紛れ込みのリスクを完全にゼロにすることは不可能だが、もともと多くの人が感染している状況であれば、その影響は小さくなる。下の図は、500人中2.5人・1000人中5.0人 (99.5%)の紛れ込みを想定したケース。

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ドイツの感染多発地のように、15%が陽性になった地域ならば、紛れ込みの影響は小さい。しかし今回の調査のような「東京でも500人中2人。過去のデータでも500人中2人」という状況だと、「感染検体数実はゼロ。2人とも紛れ込み」の可能性を排除できない。発表にもあるとおり、このデータから感染者数を推計するのはほぼ不可能である。

今後、10,000人規模の調査を再実施する旨の発表もあった。もっとも、(万一)抗体を持っている人の割合が同程度だった場合、トータルの人数を増やせば紛れ込みの人数も増えてしまうので、検査の方法や対象の選択法について吟味が必要になる。

NHKでは「抗体量の測定も含めて…」と報じられているので、次回の検査(というか、その検査法)に注目したい。


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