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アビガン特定臨床研究、最終報告から

以前、上の記事で中間解析の結果を紹介したアビガン特定臨床研究。このほど、藤田医科大学から最終報告のリリースが出た。

誰が主導の臨床研究?

この研究は藤田医科大学が主導で行われる「特定臨床研究」で、アビガンの承認のために企業(富士フイルム富山化学)主導で行われている「治験」とは異なる。現在進行中の治験の情報は、こちらから得られる。

企業が承認を得るために行われる治験は、薬機法その他の厳しい規制を受ける。一方、医師主導の通常の臨床研究は、規制は緩くなる。特定臨床研究はその中間というべきもので、「製薬会社から資金提供を受けた臨床研究」「未承認(全く承認されていない)や適応外(今注目している病気にはまだ使えない)の薬に関する臨床研究」について、通常の臨床研究よりも少し厳しめのルールを適用するもの。アビガンはインフルエンザに適応があっても、当然コロナウイルス感染症にはまだしようが認められていないので、特定臨床研究にあてはまる。

どんな臨床研究だった?

研究のPECOはこちら。

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細かな点だが、特定臨床研究の情報を公開しているサイトでは、新規登録 (3月2日)から最新版 (6月10日)まで、改訂ごとに12のバージョンが掲載されている。5月1日のバージョン (10番目のもの)までとそれ以降の2つでは、効き目のものさし(アウトカム指標)が若干変更されている。

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結果はどうだった?

89名の患者が参加し、44名が「初めからアビガンを投与する」グループに、45名が「遅れて(6日後から)アビガンを投与する」グループに分けられた。(振り分け後、遅延グループの1人が試験参加を取りやめ、44人ずつで実施)参加者数の89名は、当初の計画でも「実施予定被験者数86名」とあるので、参加者数が想定を下回ったわけではなさそうだ。

初めからグループの8名・遅延グループの11名は、参加した時点ですでにウイルスが消失しており、ウイルス量に関する評価からは除外された。この点は、ウイルス量に関する解析の際に「例数が少なくなる→『統計的にも効いた!』の結論が出にくくなる」方向に作用した可能性がある。

結果はこちら。

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追加された「11日目の消失率」などは表示されていないが、リリースにあった効き目の指標について、決め打ちの値では初め投与グループが優れていた。 「オッズ比」「ハザード比」は、1より大きければ期待しているできごと(ウイルス消失など)が起こりやすく、1より小さければ起こりにくくなると解釈できる。

3つの数字はすべて1より大きく、一見「初め投与が良く効く!」ように見えるが、幅を持たせた数字はいずれも1をまたいでしまった。例えば一番上のウイルス消失率なら、「ひょっとすると2.62倍(めちゃいい)改善するかもしれないが、最悪の場合には0.76倍改善=悪化してしまう」と解釈される。すなわち、3つの指標のどれをとっても、この試験では「アビガン投与で改善するのかしないのか、どちらかまだわからない」が結論となる。

決め打ちの値を見た場合、ウイルス消失率の差は10%程度 (66.7% vs 56.1%)・解熱までの所要時間は1.1日 (2.1日 vs 3.2日)。無症状や軽症例が対象だから当然ではあるが、「アビガンを飲まなければ絶対助からない。アビガンを飲めば必ず助かる」のような状況にないことは、ある程度推察できる。遅れ投与群は、効果を測った時点ではまだアビガンを飲んでいないことに要注意。

アビガンについては投与した群のみを追跡する観察研究も進行中だが、「投与した群」のみのデータから、「投与しない場合とくらべてどうなったか?」を評価するのは(不可能ではないが)困難である。やや遅れ気味の企業の治験の結果も気になるところ。

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