4/24 ニューヨーク州の抗体検査 (N=3,000)の暫定結果 (微修正)

ニューヨーク州政府が実施した、食料品店 (grocery store)での買い物客および従業員からランダムに選んだ3,000人の抗体検査の中間解析結果が公表された。(湯地晃一郎先生から頂きました)
全体の陽性割合は13.9%, ニューヨーク市に限定すると21.2%となる。

こちらも、調査主体の発表であり、論文発表その他の「他の人チェック (批判的吟味)」のプロセスは経ていない。

現時点では州政府の公式サイトには直接リリースがないので、CNBC (動画あり)とNY timesの記事はこちら。


調査の概要と結果

州内の19地域・40のコミュニティで、食料品店を活用して3,000人に抗体検査を実施した
こちらの記事によれば、
・買い物客だけでなく従業員も参加可能
・州の保健省 (Department of Health)から各店舗に看護師が派遣され、検査を実施
とある。

記者発表では詳細な人数はなく割合のみだが、全体の陽性率は13.9%。人種・性別・地域別の結果は以下の通り。それぞれ、州政府統計によるもともとの人口分布も示した。ある程度、州全体の分布に一致するように調査が実施されたことが見て取れる。

男性がやや高く (15.9% vs 12.0%)、アフリカ系やラテン・ヒスパニックが高い野に比して、アジア系や白人は相対的に低い。貧困層での感染拡大が多いことも一因とみられる。

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検査キットの詳細

こちらのTimes Union紙の記事によれば、州立のWadsworth laboratory (Wadsworth Center)が開発した検査キットが使用されている。センターが公表しているSARS-CoV-2 IgG検査キットの詳細はこちら

(追記4/14 11:30:   ニューヨーク州政府のサイトでも、「抗体検査に関する詳細」として同じPDFファイルへのリンクがあるため、この検査で間違いないと思われる)

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交差反応の解説のところに、特異度 (抗体がない人をきちんと陰性にできる確率)は93%から100%とある。1,000人あたりで最大70人の紛れ込みリスクがあることは、感染が強く疑われる対象に絞って検査をするときには大きな問題にはならない。しかし今回のような、多くの「ふつうの」人を対象に検査を行う時には常に注意すべきところ。

研究の限界

他のコロナウイルスに対する交差反応の話や、「抗体を持っている」と「自分はもう感染しない」「他人に感染させない」はイコールではないことは、すべての研究に共通する限界。

この研究の場合は、買い物に来た人(と従業員)を対象にしているので、ある程度他人との接触が多い(すなわち、感染のリスクが高い)人が検査対象に多く入るバイアスが考えられる。

結果の解釈

ニューヨーク州の人口1940万人・ニューヨーク市の人口840万人にこの結果 (陽性割合13.9%と21.1%)を当てはめると、先ほどの「買い物に来た人バイアス」はもちろんあるものの、州全体で270万人・市全体では184万人となる。式は省くが、「3,000人のデータである」ことを使って幅を持たせて推計すると、州全体の割合は12.7%から15.2%。市全体の割合は18.9%から23.4%となるので、州では246万人から295万人、市では164万人から204万人となる。

感染者が多ければ、他でも言われているように致死率は下がる。現時点でのニューヨーク州の致死率は5.7% (26.4万人中1.5万人←訂正)だが、分母が大きくなればこの数値は1%を切って0.5%程度になる。ただし、致死率だけで感染症の影響を議論してはならないのは、これも同様。また、自宅で診断のないまま死亡した人はカウントされないため、その部分の調整は必要になる。

現状のデータは「買い物に来た人」で13.9%、ニューヨーク州でも21.1%であり、いわゆる集団免疫の状態にはまだ遠い。

今回の調査では、高齢者施設での実態が得られていないことなど(調査のスタイルから必然)が課題とされた。州政府の表現も"Phase I"の解析結果で、今後の情報を待ちたい。


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