イスラエル保険者(Clalit)データ・118万人のワクチン効果
何度も紹介しているイスラエル保険者のデータ、New England Journal of Medicineに接種者・非接種者59万人ずつを比較した結果が公表された。
PECOはこちら。
誰と誰を比較する?
保険者(日本の国保や健保に相当)がもつ316万人のデータを、12/20から2/1までにワクチン接種した150万人と非接種の165万人に分ける。
ここで150万人 vs 165万人を単純に比べると、「ワクチン接種者は高齢者が多い」「基礎疾患がある人は優先接種されるので、ワクチン接種者に多い」
「重い疾患の治療中の人は、そもそも接種対象にならない」など、二つのグループが均等にならない可能性がある。
そこで、年齢や性別・居住地・感染リスク・基礎疾患の状況など多くの要因を揃えて (マッチング)、接種者59万人・非接種者59万人での比較を行った。
なお、施設入所者や医療・介護従事者、接種前の3日以内に受診した者 (接種者のうち34万人)は、マッチング前に除外されている。
こちらは、マッチングがうまくいっているかどうかを図示したもの (Love plot)。赤い点が中央の線 (両グループで平均の差がゼロ)近くに固まっており、どの要素でも基準として設定した±0.1 (左右の点線)以内に収まっているのがわかる。
どんな結果に?
59万人×2グループを平均15日間追跡して、イベントが起きた状況はこの通り。
1,700人を1日追跡すると、1人感染が発生したことになる。東京都 (人口1,400万人)全体で1日8,200人に相当する数字。
接種群 (vaccinated, 青) と非接種群 (unvaccinated, 赤)を、上記の
(A) 感染の記録あり
(B) 症状あり
(C) 入院
(D) 重症化
(E) 死亡
でプロットした結果がこちら。
基本は、二つの線が離れていればいるほど、差が大きくなる。
割り算と引き算のワクチン効果
結果は以下の通り。
2回目の接種7日目以降でみると、A-Dどのものさしでも90%前後の有効性がある。
ただし、「90%」の有効性は、「接種した人のリスクは、接種しない人のリスクの1/10」をさす。「10人に1人→100人に1人」でも、「1万人に1人→10万人に1人」でも、同じ有効率90%になってしまう。
今回の論文では、「1,000人を1日追いかけたとき」に、どのくらいの差が出るかの「引き算」の効果も示されている。
こちらが引き算効果。なお、引き算効果には「そもそも何人が感染するか」が大きく影響する。日本のように感染リスクの小さい国に、この値をそのままあてはめることはできない。(感染者数が10分の1なら、重症化の度合いや効き目が同じだとすれば、上の数字はそのまま10分の1になる)
「1,000人1日あたり」がややこしいので、少し書き換えてみる。
スタンダードな方法ではないが、「何人に接種すると、10日間追いかけたときにイベントの人数をちょうど1人減らせるか?」の数字を出してみよう。
例えばA(記録あり感染)で2回接種の数字は11.7人だが、計算上は11.7人を10日間 (11.7人×10日=117人日)追跡すると、接種者11.7人と非接種者11.7人での感染者の差がちょうど1人分になる。「同じ1人差を出すために必要な人数」だから、数字は小さければ小さいほどメリットが大きいことになる。当然この数値も、感染者が少ない環境下では大きくなっていく(すなわち、メリットは小さくなる)
感染に対する効果は?
上で示した (A)記録ありの感染でもある程度推定が可能だが、補助的な分析として、「症状の記録がないSARS-CoV-2感染 (infection without documented symptom)」を無症状感染の代用 (proxy)として評価している。「代用」なのは、「症状記録なし」の中に「ごく軽い症状が出ていたが、記録されなかった」ケースが含まれるため。
症状記録なし感染への効果はこちら。
もちろん、英国の研究のように定期的にPCR検査を実施しているわけではないため、無症状感染を見逃している可能性はある。ただ、見逃しが接種群でも非接種群でも同じように発生するならば、少なくとも「割り算」で見た効果 (14-20日で29%、2回接種7日目以降で90%)については、ある程度当てはめは可能だろう。