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イスラエル・病院スタッフへのワクチン接種の効果
イスラエル最大の病院 (Sheba Medical Center)で、病院スタッフのデータからワクチン接種状況 (未接種・最初の接種から1-14日・最初の接種から15-28日)と発症の有無・感染の有無を比較した研究が発表された。
発表先は一流誌のLancet。ただしこの研究は"correspondence (短報・速報)"で、通常のような外部の査読は経ていない。(もちろん、雑誌のエディターのチェックは入る)
研究の対象は?
病院で働く9,647人のスタッフのうち、すでに感染歴のある人などを除いた9,109人がワクチン接種の対象となった。
1月24日現在、7,214人 (79%)が1回目の接種を、そのうち6,037人 (66%)が2回目の接種(間隔は3週間)も終えている。
12月19日から1月24日にかけて、接種対象者9,109人のうち、PCR検査などで陽性と判断されたのは170人・陽性かつ症状があったのは99人であった。この170人と99人を、ワクチン接種状況で切り分けると次のようになる。
期間と人数で調整??
上の表を見ると、「接種から時間が経つと激減!」と読めてしまうが、このままではやや問題がある。
当然のことながら、3つのグループは1:1:1ではなく、人数が異なる(ワクチン接種と非接種をあらかじめ振り分けたのではなく、徐々に接種が広まっていく状況下でそのまま追跡しているため)。だとすれば、人数で割り算するのも一つのアイデアだが、例えば「初回接種後15-28日」のグループの人は、12月中には誰もいないはずである(イスラエルでの接種開始日は12/20だった)。すると、「ワクチン非接種の人は1ヶ月まるまる追跡対象になる。一方、ワクチン接種後15-28日の人は、最長でも半月弱しか追跡できない」ことになってしまう。そこで、人数だけでなく追跡期間も揃えて (人年法・人月法・人日法)比較している。
All SARS-CoV-2 positive (PCR陽性者)・Symptomatic COVID-19 (発症者)それぞれ、3行目 (Rate per 10,000 person-days)が人数と期間を揃えた数値である。
例えば陽性者であれば、7.4・5.5・3.0という数値が出ているが、「非接種者・1-14日の接種者・15-28日の接種者1,000人ずつのグループを、10日間追跡したとすると (1,000人×10日=10,000人日)、それぞれ7.4人・5.5人・3.0人が陽性になる」
のような解釈になる。
接種の効果は?
上の表には、4行目・5行目にワクチン効果の数字がある。
4行目 (黄色)が、さきほどの数値からそのまま計算した値。5行目 (緑色)が、日によって感染状況が異なること(イスラエルでは、1月16日付近がピーク)を盛り込んで調整した数値である。
調整した数値でみると、ワクチン接種2週間後と非接種者を比較した場合、陽性者を75% (幅を持たせると72%から84%)・発症者を85%(幅持たせると71%-92%)減少できることになる。1-14日目では効果は小さいが (前者が30%・後者が47%)、どちらも幅を持たせたときの下限はゼロを超えているので、「効果はある」といえる。
研究の限界は?
接種・非接種を振り分けず、スタッフの接種状況を追跡する観察研究であること以外に、いくつかの限界がある。
著者らが述べているように、このデータは病院スタッフのものであり、平均年齢もやや若い。そのため、高齢者やハイリスクの人に当てはめることは難しい。
また、無症状者のデータ (PCR陽性者)については、論文中に"積極的に検査を実施しているわけではないため (Lack of active laboratory surveillance)、陽性者数は実際よりも低くなる可能性がある"と言及されている。どのようなタイミングで検査が行われているかは記述がないが、例えば濃厚接触者やリスクの高い作業に従事するスタッフに限って検査が実施されているなら、見逃しが発生する可能性はある。
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