見出し画像

クリニック受診者の抗体検査 (東京, N=202)結果 (検査キットに関する追記あり)

東京新聞に出た記事。

東京都の二箇所のクリニックで、4/21から28日に抗体検査を202人 (医療従事者55人・それ以外147人)に実施した。クリニックのウェブサイトでは「有料 (5,500円)で希望者に抗体検査を実施する」とあり、少なくとも医療従事者以外の147人は、この有償検査への参加者と思われる。

結果、医療従事者55人では5人 (9.1%)、それ以外の147人では7人 (4.8%)、まとめると202人中12人 (5.9%)が陽性であった。幅を持たせると202人全体のデータで3.1%から10.1%、医療従事者を除いた数値では1.9%から4.8%という値になる。

慶應病院のデータよりも「やや」一般の人に近いデータで、非常に貴重な情報ではあるが、他の研究と同様にさまざまな限界は考慮する必要がある。

スクリーンショット 2020-04-30 11.05.13

こちらが、今までの検査データ。ポイントになるのはいつも同じで恐縮だが、「どうやって参加者を見つけたか?」と「検査の見逃し・誤検出はどの程度か?」である。

参加者の見つけ方は?

今回の検査は、慶應病院のように他の病気の治療ではなく、抗体検査を受けることを希望して来院した人を対象としている。「希望してクリニックにやってきた」人なので、ランダム抽出よりもハイリスク者が多く含まれることになる。金銭負担が発生するとしたら、それ自体がハードルになるために、さらにハイリスク者に「濃縮」される可能性はある。

実際東京新聞の記事では、「一ヶ月以内に発熱ありが52人・同居者で感染者がいる人が2人・PCR検査受診経験者が9人・PCR陽性者1人」とある。発熱の有無はやや揺れがあるとしても、東京都の感染者数は4/28現在で4,059名・PCR検査数は10,981名 (東洋経済ページより)。おおむね感染者が3,000人に1人、PCR検査者数が1,300人に1人の水準である。202人中感染者と同居が2人・PCRが9人という値からすれば、(当然ながら)リスクが高い状況にある人がより多く受診を希望し、その結果として陽性割合が高くなったことが考えられる。

見逃し・誤検出の程度は?

記事中、クラボウの検査キットを使用したとある。製品のサイトからの情報はこちら。陽性判定率・陰性判定率の用語がやや疑問だが、前者を感度 (抗体がある人のうち、どのくらいが検査陽性?)・後者を特異度 (抗体がない人のうち、どのくらいが検査陰性?)と捉えれば、見逃しのリスクはそれなりにあるが、感染していない人を陽性にしてしまう可能性はほぼゼロ (数字の上では0%)となる。

キットに関するより詳しい情報は見つけられず、交差反応の可能性その他は情報が得られなかった。

スクリーンショット 2020-04-30 11.35.26

(追記4/30) 国立感染症研究所が4/1に、Covid-19患者37症例の血清を用いた「市販のイムノクロマト法による抗体検査」の評価を行っており、「発症1週間でも検出率は2割にとどまり、診断には発症後13日以降の血清が必要」としている。また、埼玉医科大学での確定患者4症例の検討結果では、やはり発症1週間では検出されず、1症例では最後までIgM抗体が検出できなかった (IgGは検出)。発症から日が浅い段階では、このキットでの見逃しのリスクはやや高いと考えられる。
紛れ込み発生に関しては「患者以外の血清に反応するか?」のデータが必要となるが、こちらについては研究結果が得られていない。

結果をどう活かす?

上記の通り、参加者の募集方法上、「リスクの高い人が集まる」ことはどうしても限界となる。それゆれ、抗体陽性割合はやや高くなる。抗体保有者を「感染者」と見なした場合、死亡者÷感染者の致命率は、陽性者の人数が多いほど低くなる。そのため、今回の値をそのまま東京都全体にあてはめると、感染者の人数は大きめ・致死率は低めになることは注意が必要である。

ただ、世界のどの疫学調査にも限界はあるし、完璧を求めていては何も進まないのもまた事実。これが嚆矢となって、違った背景の調査が出そろうことを望みたい。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?