イスラエル発・ワクチン接種直後の状況は?

実世界でのワクチン効果

現時点でもっともワクチン接種割合の高い (25%超) イスラエル。60歳以上の高齢者・ハイリスク者から始まった接種は、現段階では40歳以上まで対象が広がっている。

日本の国保組合や健保組合に相当する組織から、加入者の接種状況と接種者と非接種者とで感染者数を比較したデータが随時発表されている。

主なデータは、最大手(シェア53%)のClalitと、二番手 (シェア19%)のMaccabiが公表している。どのデータも査読論文やプレプリントではなく、あくまで組織からのリリースである。

なお、ClalitやMaccabi,さらにはイスラエル保健省も、「ワクチンを打ったとしてもマスク・ソーシャルディスタンスなどの対策は必要」と注意喚起している。

Clalit社からのデータ (陽性者を3分の2に減らす?)

まずはClalitが1月13日付けで発表したデータ (原文はヘブライ語のみ・chrome翻訳で確認)。

https://www.clalit.co.il/he/your_health/family/Pages/pfizer_covid_vac_effect.aspx

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結果は上の通り。以前から紹介しているように、「33%の人に効く!」ではなく、「陽性になった人が3分の2に減る」である。リリースでは、そもそも何人が陽性になったかの情報はない。

この研究を英語で紹介した文献(BMJ)にもあるが、ファイザー社の臨床試験のデータでは、1回接種の人での有効率 (1回目の接種から2回目の接種までの間の数値)は54%であった (およそ2万人のうち、ワクチン群39人・プラセボ群82人)

臨床試験の結果と比べるとやや有効率が下がっているように見えるが、イスラエルのデータは60歳以上の高齢者に限定されていることや、イスラエルのデータは陽性者(症状を問わない)をカウントし、ファイザー社のデータは症状がある陽性者をカウントしているので、単純な比較は難しい。

また、イスラエルの研究は「ワクチン接種者のデータを集めた上で、同じ年齢層のワクチン非接種者のデータと比較したもの」であり、もともと接種者と非接種者である程度背景が異なっている可能性がある。(接種者はよりハイリスクな人が多かったなど)公表資料では年齢以外について、背景を揃えているかどうかは不明。

Maccabi社からのデータ (陽性者を6割減らす?)

次いで、Maccabi社が公表したデータ。12月19日から24日の間に接種した50,777人 (全員が60歳以上)と、maccabi社の60歳以上の加入者全体 (48万人)について、陽性率と入院率を比較している。少しややこしいところだが、「接種者と非接種者の比較」ではなく、「接種者と加入者全体の比較」なので、後者にはワクチンを接種した人も含まれる。

結果はこちら。青が加入者全体での新規陽性者数(50,777人あたりに調整)、緑が接種者での新規陽性者数黄色が接種者での入院者数である。

およそ5万人と考えて22-23日目付近のデータをとれば、「ワクチンを接種すると、全体と比べて、1日あたりの陽性者数を1万人中3.6人から1万人中1.3人に、60%程度減らせる」となる。

入院者については全体のデータがないが、資料中には「入院者数も60%強の減少がみられた」と述べられている。

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こちらのデータも、「参加者を集めて、接種・非接種に振り分けた」形ではないので、背景が揃っていない可能性はもちろんある。公表資料では、背景などを調整した解析結果を改めて公表(論文かどうかは不明)すると付記されている。

Maccabi社2回接種のデータ

大元の資料は得られなかったが、Maccabi加入者でワクチンの2回接種が完了した128,600人のうち、陽性者は20名 (0.015%, 1万人に1.5人)で、入院者や38.5度以上の発熱者はいなかった。

こちらも非接種の比較対照はないが、上の記事の中では「不完全ではあるが、もし全罹患者を比較対照ととらえるなら、0.65%程度」という疫学者のコメントがある。非常に単純に「1万人中65人を1万人中1.5人に減らした」と考えるならば、臨床試験の結果と同程度の効果が見られたことになる。もちろん、陽性者と発症者の違いは依然として残るし、背景因子の問題も同様である。


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