【コント】いけにえ

佐伯
（ベッドで寝ている）

スマホ
「ウィーンウィーンウィーン。」

佐伯
「（スマホに出る）・・・はい。」

社長
「あ、佐伯くんか？
　私だ！社長の松園だ！」

佐伯
「あぁ、おはようございます・・・。」

社長
「佐伯くん！助けてくれ！」

佐伯
「・・・どうかされたんですか？」

社長
「今、どこかの山の奥なんだが、
　私、よくわからない団体に連れ去られて、
　山の神さまのいけにえにされようとしてるんだ！」

佐伯
「・・・ＺＺＺ・・・ＺＺＺ。」

社長
「寝るな！
　社長の非常事態なんだ！」

佐伯
「・・・ごめんなさい。
　ピラニアがどうかしましたか？」

社長
「ピラニアじゃない！いけにえだ！
　似てないにも程があるぞ、佐伯くん！」

佐伯
「・・・すみません。」

社長
「まず目を覚ませ！
　窓を開けて換気しろ！！」

佐伯
「（窓を開ける）おぉ・・・、寒っ！！」

社長
「どうだ！目が覚めたか！」

佐伯
「覚めました。
　で、ウクレレがどうかしましたか？」

社長
「ウクレレじゃない！いけにえだ！
　『ウクレレにされる』ってなんだ！
　なんなら、いけにえにされるよりイヤだぞ！」

佐伯
「すみません。」

社長
「とにかく助けてくれ！
　今、巨大な みこしみたいなものに乗せられて山奥を進んでるんだ！
　とりあえず、今の居場所をメールで送るから！」

佐伯
「わかりました。」

社長
「頼んだぞ！！」

スマホ
「ガチャ。ツーツーツー。」

佐伯（心の声）
「（スマホを見ながら）社長が私に助けを求めている・・・。
　こんなことは初めてだ・・・。
　長年勤めていてもパッとしない一介の社員の私に・・・。
　社長が・・・助けを・・・。」

スマホ
「ウィーンウィーンウィーン。」

佐伯
「はい。」

社長
「今どんな感じだ？」

佐伯
「あ、浸ってました。」

社長
「浸るな！早く来い！」

佐伯
「すみません。あと３０分浸ってていいですか？」

社長
「だから浸るなって！
　『３０分か。できるだけ手短にな。』とはならないから！」

佐伯
「急いで準備します。」

社長
「頼んだぞ！」

スマホ
「ガチャ。ツーツーツー。」

佐伯
「とりあえず、急いで助けに行こう。
　・・・何着ていけばいい？
　社長の前だから、キッチリした服じゃないと失礼だよな・・・。
　（クローゼットから服を出し）うーん・・・。
　（別の服を出し）これも違うな・・・。
　（さらに別の服を出し）これは派手すぎるか・・・。」

スマホ
「ウィーンウィーンウィーン。」

佐伯
「はい。」

社長
「家を出たか？！」

佐伯
「まだ家です。」

社長
「何してんだよ！」

佐伯
「何着て行こうか迷ってました。」

社長
「デートの日の朝か！！
　この際、服はなんでもいいから！」

佐伯
「あ！」

社長
「なんだ？」

佐伯
「妻にプロポーズしたときの服にします！」

社長
「私、助け出された後で、君に何されるんだよ！！」

佐伯
「とりあえず、すぐに家を出ます！」

社長
「頼んだぞ！
　私は今日は外せない打ち合わせがたくさんあるんだから！」

佐伯
「わかりました。」

スマホ
「ガチャ。ツーツーツー。」

佐伯
「急がないと・・・。
　ん？」

社長（回想）
「私は今日は外せない打ち合わせがたくさんあるんだから！」

佐伯
「・・・この言い回し、『私は忙しいが、お前は忙しくないんだろ？』とも取れる・・・。
　もしかして、あの社長、私を身代わりにしようとしてないか？」

スマホ
「ウィーンウィーンウィーン。」

佐伯
「もしもし？」

社長
「おい、準備はできたか？！」

佐伯
「社長・・・。
　もしかしてですけど、私を身代わりにしようとしてます？」

社長
「違う違う！
　周りの人間に『いけにえにされそうだから助けてくれ』って連絡をしたんだが、
　『いけにえってどういうことですか？』って言われて取り入ってもらえなかったんだ！
　仕方ないから社員に電話をかけまくって、君にたどり着いたんだ！」

佐伯
「・・・ＺＺＺ・・・ＺＺＺ。」

社長
「なんで寝るんだよ！
　キミから聞いてきたんだぞ！」

佐伯
「疑ってすみませんでした。」

社長
「わかったら早く支度をしなさい。」

佐伯
「その前にひとついいですか？」

社長
「なんだ？」

佐伯
「『いけにえ』ってどういうことですか？」

社長
「結局、君も抱くんだな、その疑問！」

佐伯
「久々に聞きました。『いけにえ』って言葉。」

社長
「私だって久々に聞いたよ！
　正直、どういうことか一番聞きたいのは私だよ！
　なんなら今だって、この人たち、いつ『てってれー』って言うんだろうって思ってるよ！」

佐伯
「とりあえず、支度します。」

社長
「あぁ、頼む！」

スマホ
「ガチャ。ツーツーツー。」

佐伯
「早く支度しないと。
　あ、そうだ。
　その前に・・・（テレビをつける）。」

スマホ
「ウィーンウィーンウィーン。」

社長
「もしもし！
　さっき体じゅうにバターを塗られたぞ！
　まだ来れないのか？！」

佐伯
「社長・・・。
　おとめ座１２位でした・・・。」

社長
「占いチェックしてんじゃねーよ！！」