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第七話 色鉛筆姉弟
毎度、お世話様です。文具問屋営業、さかがみ文具店担当です!
今回は、かわいい姉弟と学生の交流の話です。私もそんな若い頃を過ごしたかったな。
毎月買う
先日、さかがみ文具店に納品に行ったとき、小さな姉弟がレジで色鉛筆を一本、買っていました。学校で使っている色鉛筆をその色だけ失くしちゃったのかなと私は思いました。子どものころ、私もよく物を失くす子で、母親にいつも叱られていたなあ、などと懐かしく思い出します。
店長にそんな話をしたら「ああ、あれね。あの子達は毎月一本ずつ色鉛筆を買っているんだよ」とにこやかに話していました。なんでかなあ、とちょっと疑問に思いましたが、まあ、お小遣いの範囲で買っているのかなと思いました。ところで、買うのはいつも三菱鉛筆の色鉛筆だそうですよ。
もう、これは定番の色鉛筆ですよね。誰でも一度は手にしたことがあるはず。
しかし、一色ずつだと全36色を買うまでに3年かかりますね。店長に聞いたら、もうこの姉弟は5本買ったそうです。
色鉛筆のプレゼント企画
気候も落ち着いてきて、学習用文具の嵐も去ったので、何か販売促進企画をしようと、私も営業ですので考えます。メーカーさんや小売店さんと一緒にできることを考えなきゃなりません。そんなときにその姉弟に会ったので、小さな企画ですが、色鉛筆をプレゼントする企画はどうかと思いました。あ、あの姉弟、ミドリちゃんとシンゴくんだそうです。
店長、副店長が賛成してくれたので、賞品はお店と弊社で折半で用意し、POPなどは弊社で作ることにしました。
ざっくり説明すると、大人なら1000円、子どもなら1円でも文具購入したら応募可能(一人一回)ということにして、レジ横に簡単な応募箱を用意しました。
商品は三菱鉛筆さんの36色色鉛筆を筆頭に手動の鉛筆削り、鉛筆補助具、画用紙セットなどを用意して、子どもたちにも参加しやすいようにしました。でも、恣意的にあの姉弟に当たるようにはしませんよ。そこはフェアに。
まあ、最近は学校でも鉛筆やシャープペンシルを使わなくなってきているとも聞くので、文具好きには少しさみしいです。あらためて、鉛筆の良さを知ってもらいたいということもあるし、願わくば、さかがみ文具店の売上が上がって、弊社に発注が来ることも願っていますよ(笑)
応募と当選者
ありがたいことに、企画にはたくさんの応募があったようです。まあ、あまり難しい条件ではないですし、レジ横に箱をおいたので、なんとなく応募した人もいたんだろうと思います。当然、あの姉弟も応募していることでしょう。
締切日が来て、その夜、私も同席して抽選が厳正に行われました。残念ながら、その姉弟には当たりませんでした。残念、ってなんでワタシが残念がっているんだろう(笑)?
当選したのは、店の近くにあるデザイン系の学校に通う専門学校生のカエデさんでした。この娘さんも店にはよく来るとのこと。
店の奥にあるスペースに居ることが多いんだそうです。さかがみ文具店には店の奥にちょっとした作業台があって、そこで小さなイベントをしたり、普段は子どもたちの遊び場にしたりしています。時には、そこで店長がPOPを書いたりすることもあります。そんなスペースにそのカエデさんは時々いて、何か絵を描いているんだそうです。だから、色鉛筆はきっとカエデさんに引き寄せられたのかもしれません。
結果発表
抽選結果の発表を見に来た色鉛筆姉弟は残念ながら、当選しませんでしたので、それを見てシンゴくんは泣いていました。でも、姉のミドリちゃんはしっかりしていて、弟を慰めていました。同じ時に、専門学校生も結果を見に来ていて、喜び半分、姉弟の姿を見て悪いなあという気持ち半分の顔だったようです。私なら、「上げるよ」と言ってしまいそうです。
でも、このカエデさんは違ったようです。後で聞いた話ですが、実はカエデさんは姉弟を前々から見ていたんです。自分もよく座っているイベントスペースで2人が仲良く絵を描く姿を、微笑ましく見ていたそうです。
自分にも3つ違いの弟がいるようで、とても仲良しなんだとか。それで、この姉弟を見ていると自分の子どもの頃を思い出していたんだそうです。
今、カエデさんの弟はサッカーで海外に留学していて日本にはいないそうで、あの姉弟を見るたび、弟はどうしているだろう?と思うんだとのこと。ま、時々、メールは来るらしいですけどね。
交流
ある日、残念ながら、抽選に漏れた色鉛筆姉弟がイベントスペースで絵を描いていました。彼らはスマートフォンでゲームをやるより、絵を描きたいのだそうです。そこへカエデさんが来ました。
カエデさんは2人が描いている絵を覗いてみました。二人は上手にクジラの絵を描いていたそうです。カエデさんは声をかけました。
「なぜ、クジラを描いているの?」
するとミドリちゃんは「海が好きなので。それに青と黒、灰色、黄緑くらいしか色鉛筆を持ってないから。。。クジラなら描けるかなと思って。黄緑は今日は使ってません。本当は太陽を描いたり、タコとか、ヒトデとか赤やオレンジのものも描きたいけど、それはまた色鉛筆を増やしてからかな」とにこやかに答えたそうです。
実はカエデさんはちょっとした苦学生です。弟のサッカー留学費用はかなりのお金で、これを捻出するため、親は頑張って働いているそうです。だから、カエデさんの分まではなかなか回っていません。自分自身も弟を応援しているので、それを恨みに思っているなんてことはないわけですけど。
だから、カエデさんはバイトして学費の一部を賄っているので、この姉弟の気持ちがなんとなくわかると言ってました。また、弟が海好きであることも共通点としてあったので、色鉛筆をただ上げるってことではなくて、なにかできないかなと思ったそうです。
「ねえ、一緒に描こうよ」と言って、カエデさんは36色の色鉛筆を取り出しました。姉弟の目の色が明るく変わったのが、鈍感な店長にもわかっそうです。文具の力を感じますね。で、偉いのはミドリちゃん。
「シンゴ、このお姉さんの色鉛筆なんだからね。借りるんだから、大事にしなきゃだめよ。いつもあんた、芯をポキポキ折るんだから」
と弟に声掛けしていたそうです。カエデさんはにこやかにその姿を見て、三人で海の中、そして青い空と太陽を描いていたそうです。
クジラの下には、ヒトデやタコ、カニなどの赤いものがたくさん描かれたし、水面の上には空と雲、太陽とかもめも描かれていたそうです。
店長はPOPにその絵を縮小コピーしたものを三菱鉛筆さんの色鉛筆につけて
「海を描くなら三菱鉛筆の色鉛筆!」
って。ずるい(笑)
(この話はフィクションです)
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