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第二十五話 デッドストックリバー

第二十五話は、久しぶりの登場、TTがお伝えする。
火の国へ向かう二人だが、ここで大きな衝撃にあうことになる。

大河

南西に向かい始めた二人だが、足取りは軽い。なぜなら、シノンがもしかしたらじゃばらんだを一緒に作ってくれるかもしれないからである。気持ちは当然、前向きになろう。
日々、ライターの魔法でじゃばらんだに記録をつけているこひなたんだが、この数日の内容は前向きなものが多い。特に、サガワンにおぶってもらったあとは、サガワンに対する態度も大きく変わり、信頼を寄せているようだ。

サガワンの方はというと、いよいよ、じゃばらんだの旅も終わりに近づいているのでは?という期待がある。一方で、自分は異世界からげん世界へ帰れるのか?という不安とも期待とも取れない感情に支配されていた。
念の国の帳面の店を出て、もうまる二日歩いた。しかし、サボテンが時折、立っている荒野は続いている。サボテンが角度によって人に見えることがあり、ドキッとするが、実際は誰もいない。

ところが、三日目の昼過ぎ、急に大きな音とともに濁流が現れる。川幅は向こう岸が見えないほどである。茶色の水が轟々と流れている。周りには木々もないし、向こう岸が見えないから、こひなたんの魔法で橋をかけるのも難しそうだ。
困って立ちすくむ2人は、さらに異様な光景を見る。

手帳筏

立ちすくんで川を見ていると、音の質が変わり始める。よく見ると、川面を手帳が流れてくる。はじめは、一冊、二冊だったのが、段々と数が増え、10分もすると川面を覆い尽くすほどの量になった。まるで、桜の花びらが川面を埋める「花筏」のようだ。

こひなたんがいう。
「今年もこの時期が来たのね」と。
毎年のことなのだ。サガワンはその理由を知らないから、不思議な川を見ながらボーッとしている。

「この時期、不要になった手帳をいろいろな国の人が川に流すのよ。ものによっては錬金術師が開発したものの、売れなかったものやお蔵入りになったものなどが含まれるの。だから、この川のことをデッドストックリバーと呼ぶ人もいるわ。実は私もこの目では初めて見たの」
とこひなたんが説明する。サガワンは思う。こうした手帳が減るといいなと。そして、思い出す。少なくとも、SHREDDERの手を借りて、再利用される手帳が増えるといいなと。実際、サガワンが元々居た現世界でも、大量の手帳やカレンダーがデッドストックとして、廃棄されている現実があると聞く。じゃばらんだがそういう仲間にならないことを願うばかりである。

堰とSHREDDER

そんなことを考えていても、この大河を渡ることはできない。手帳の筏は一時間ほど継続して流れていたが、数が減ってきた。と思ったら、水が少しずつ増えてきた。川の水がせき止められているようだ。
これだけ早く貯まるということは近くにダムか、堰があるのではないかと想像された。そこで、こひなたんは「川を下りましょう」と言った。

こひなたんはできるだけ川から離れながら、並行して河原を下った。サガワンはこひなたんが見える範囲で川の近くを歩いて下り、堰が見えたら知らせることにした。

二時間も歩いたところで、堰が見えてきた。かなり大きな堰だ。堰の手前には大量の手帳が溜まっている。そして、それを大量のSCISSORSが拾い集めている。拾っては岸にある池のようなところで泥を落とし、物干しのようなものに掛けている。イカを干しているような光景だが、干されているのは手帳である。異様な光景だ。

陸の奥の方では、
(シュイーン!ガリガリ!ガリガリ)
という音が聞こえる。そちらの方へ乾いた手帳を運んでいるSCISSORSもいる。2人は呆然とこの様子を眺めていた。一種、建設現場のようにも見える。

ガリガリする音の方へ近づいていくと、
(あ!SHREDDERだ!)
とサガワンは思った。こひなたんがどう思うかと心配になった。
「サガワン、剣は重くなっていないの?」とこひなたんが訊く。大きくうなづくサガワン。こひなたんはすぐに理解したようだ。

続き 第二十六話 モーゼ?


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