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第二十六話 モーゼ?

今回は、こひなたん視点からお伝えする。
南西に向かって歩いてきて、大河にこの先を遮られている状態の中、魔王SHREDDERに会ってしまい、どうなることかと思っているところ。。。

魔王は味方

サガワンが全く慌てていないのを見て、私はこれは何かあると思った。私が眠り込んでしまったとき、SHREDDERを見た気がして危ない!と思ったことは覚えているけど、それをサガワンには伝えられていないまま、眠り込んでしまった。あのあと、何があったのか?

SHREDDERはこちらにまだ、気づいていないようだ。訊くなら今のうちだろう。サガワンは不安そうな顔でこちらを見ている。
「あなた、SHREDDERと何かあったわね。あの念の国の入り口でSHREDDERに出会ったのに、あなたもSHREDDERも傷ひとつ負っていないのはどう考えてもおかしいわ」
「やっぱり、わかっちゃうよね(笑)。でも、話してもにわかにはこひなたんも俺の言うことを信用できないと思うよ」
「それでも話してもらわないと先に進めないわよ。じゃばらんだを火の国に持っていくためには、この大河を渡らなければならないし、そのためにはこのまま魔王を放っておくこともできないと私は思うけど」
「そうだね。じゃ、結論から。魔王は私たちの味方だと思う」
「何を馬鹿なことを言っているの?」
「ね?信じられないでしょ。黙って聞くならこの先も話すけど、頭ごなしに反論するならもう話さない」
「わかったわ。黙って聞くわ」
このあと、サガワンは(第九話)の話を私にわかりやすく話した。私も根気よく聞いた。にわかには信じられない内容だったけど、魔王SHREDDERへの見方は少し変わった。実際、目の前で行われているのは、SCISSORSとSHREDDERの前向きな作業でもあり、自分の心が動いていくのがわかった。

私の目が変わったのを知ったのか、サガワンが大声を上げる。
「SHREDDER!俺だよ、サガワン!」
「おお、君か。ここまでたどり着いたんだな。今年はデッドストックが多いと聞いていたので、早めにここに来たのだが、思った以上に多くて苦労しているぞ」
「そうですか。お手伝いしたいのですが、流れ着いた手帳をそちらに運んでいけば良いですか?」
「おお、助かるぞ。だが、君たちは先を急ぐのだろう?そうだな、その君の目の前にある乾いた手帳の山を運んできてくれ。それを運んだら十分だ」
「わかりました。乾いているとは言え、結構重いな(笑)。あれ、剣が重くなったぞ。抜けという合図だな」
サガワンが剣を抜くと、剣はいつものように勝手に動き、手帳の山にある手帳をどんどん串刺しにしていく。手帳に剣が刺さっていくのはちょっと気が引けるが、運ぶのには良さそうだ。
サガワンがそれを手に取ると「あれ、軽くなってる!」という。不思議な剣である。

SHREDDERの力

魔王SHREDDERはにこやかに言う。
「おお、手伝ってくれてありがとう。これでまた来年の手帳をしっかり作れそうだ。新しい紙を木から作って行くのも良いが、再生された紙を使い続けるのも良いものだぞ」と。
確かに、まっさらな手帳はいいものだが、将来的には再生紙の割合も増えていくのかもしれないと私は思った。
そして、SHREDDERは言った。
「君たち、火の国へシノンを探しに行くのだろう?そのためにはこの大河を渡る必要があるな。この堰は私が管理している。ほんの数分だが、堰でまさにこの大河をせき止められる。君の持つ、じゃばらんだをシノンに私も見せて欲しい」
そんな風に言ったSHREDDERは、近くにいたSCISSORSに何やら指示したと思ったら、ごごごごーと大きな音がし始めた。

堰が動き始め、まさに川をせき止めはじめた。少しずつ大河の水が留まりはじめ、堰の下流は10cm程度の水深になっていった。SHREDDERはモーゼか!
「さあ、行け!本当に数分しかないが、向こう岸はだいぶ先だからな」
私とサガワンは「ありがとう!」と大きな声で礼を言い、すぐに走り出した。私は宙に浮くのをやめ、サガワンと一緒に走った。しかし、サガワンは足が遅い!

決壊

SHREDDERは数分と言っていたが、2分もしないうちに堰の上から水が溢れ始めた。たぶん、想定以上の手帳が上流から流れてきているのだろう。このままでは、サガワンの足の遅さから言ってふたりとも流されてしまう。ああ、どうしたら!

20メートルほど後ろで、さっき走ってきたあたりの堰が決壊し始めた!溢れるというレベルではない勢いで、水が濁流となって流れ始めた!みるみるうちにその幅は広がっていき、私たちの方へ迫ってきている。しっかり走っているつもりだが、とても逃げ切れそうにない。

とうとう、さっきの決壊し始めたところが、ゴゴーっという爆音を立てて完全に崩壊した。みるみるうちに私達の方へ向かってくる。このまま、濁流に飲み込まれるのか!

続き 第二十七話 覚醒

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