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第四話 店長の万年筆

最近、私自身も万年筆にちょっと興味がありまして、、、ですが、高いものは安月給の私にはとても買えません。なので、今は安い入門用の万年筆で練習中といったところです。
今回は、店長の万年筆について聞いた話を書いてみますね。

シェーファーの万年筆

早速ですが、店長の万年筆はシェーファーの万年筆です。なかなか、古いものらしいです。私にはわかりませんが、年代物のようで、店長も実はあまり使っていないらしいです(笑)。

この間、ちょっと聞いたら、大事にしていると言ってました。ペン先が詰まっていて、インクが出にくくなっているから、あまり、無理に使ってないそうです。あ、洗浄はしっかりしているそうです。でも、インクは出ない。

このコラムにある、タルガという万年筆の一種だそうです。

店長の若い頃

でも、なんで店長が使わない万年筆をずっと持っているんだろうと、私は疑問に思いました。だって、そうでしょう?文具店の店主なんだから、そういうものこそ、大切に使うべきでは?と思うのです。ま、私からすれば、安物万年筆で練習中ですから、偉そうなことは言えないわけですけど。

で、そんな疑問を営業に来たとき、時間を見て聞いてみたことがあるんですよ。店長はニコニコしながら、「長くなるけど、聞く?」というので、覚悟を決めました。

店長がまだこの店を継ぐずっと前、バンドマンだったそうです。副店長は、そのバンドのファンだったとのこと!おい!ファンに手を出したのか!(笑)。まあ、その頃はバンド流行ってましたからねえ。
で、そのバンドで、店長はベースを弾いていて、頑張っていたそうですが、よくある話でなかなか芽が出なかったみたいです。バンドの中でも、一番の仲良しはリズム隊として一緒のドラマー、糸瀬さん。同い年で、糸瀬さんの実家も小売店をやっていたそうで、仲良くしていたそうです。

で、糸瀬さんのお家は、時計の修理を中心にやっていて、店の中にも家にもたくさんの時計があったそうです。やっぱり、時計のチクタクが正確だから、ドラムをやることになったのかな(笑)。それはそうと、お互いの家を行き来していた店長と糸瀬さん。家族の付き合いまではなかったものの、お互いのことは相手の家族から認識されていたみたいです。

しかし、バンドブームはさり、店長のバンドも解散の危機に。仲良しの二人はお互いのことを忘れぬようにと、約束したそうです。そして、お互いの店の何かを、親に許可をもらって交換しようと。
当然店長は何か文具を選ぶことになりましたが、現会長であるお父様に話したところ、「これがよかろう」と例のシェーファーを差し出されたそうです。
ではなぜ、まだ手許にシェーファーが?

糸瀬さんの失踪

この疑問は、店長の説明でわかりました。
糸瀬さんのお父さんのお店ですが、友人の借金の肩代わりをお父さんがしたことで、人手に渡ってしまったのだそうです。もう二十年以上は前の話です。
さて、店長と商品交換をしようと言っていた当日、糸瀬さんは約束の場に来ませんでした。きっと、会うことも控えたんでしょうね。店長がどうしたのかと思っていたら、後でその話を違う友人から聞いたそうです。
だから、シェーファーを渡すことは叶わず、そのままになっているんだとか。でも、ずっと使わずに居ることも店長はできなくなって(店長の持論が使われてこそ文具には価値が出る、ですからね)、使ったりしていたようです。
そんなわけで、店長はずっとそのペンをいつか渡せる日が来ると思って、持っているわけです。

驚きの出来事

とかいう話を聞いていたのは、実は3年ほど前です。私も長く、さかがみ文具さんを担当してるなあと思います。それは置いておいて、実は最近、驚きの出来事があったんです。それで、この話を思い出したというのもあります。
それがね、糸瀬さんが店を訪ねてきたんです。ちょうど、私も新製品の紹介に店に来ていた時だったので、びっくり!

その時の話です。糸瀬さんは店長と会えずに居なくなったとき、時計を用意できていなかったそうです。だって、借金の形に全部、持っていかれちゃったので。だから、店長に渡す時計を用意できず、それが申し訳なくて、黙って居なくなったと。。。
じゃあ、今頃なんで?と思いますけど、糸瀬さん、ずっとそれが心に引っかかっていたんだとのこと。まあ、それはわかります。私にも若いときにそういう事があれば、折に触れて思い出しちゃいますよね。

先日、糸瀬さんは念願の時計のお店を開いたんだそうです。実はずっと地方の時計店で修行をしていて、やっと自分のお店を持てる事になったのだとか。ご本人曰く、本当に小さな店なんだそうですけど、古い時計なども積極的に修理を受け入れて頑張っているそうです。

で、ある日、糸瀬さんのお店にあるお客様が古い時計を持ち込んできたそうです。その時計は、あのとき、店長に渡そうと思っていたものだそうです。名前を聞いたのですが、腕時計をしない私には、なんだかわかりませんでした(笑)。SEIKOとか言ってたような。
それは良いとして、糸瀬さんはその持ち主になんとか、これを譲ってもらえないかと交渉して手に入れたそうです。
これで、店長に会いに行こう!と決めたそうです。さかがみ文具店があってよかった。

でも、、、

良い出会いがあったわけですが、結局のところ、二人は商品を交換しませんでした。店長に、なんで?、と聞いたら、
「だって、交換したら糸瀬と縁が切れるような気がしたからさ。あいつにそう言ったら、そうだな!って言って笑っていたよ」とのこと。なるほどね、そういう考えもありますね。
だから、今でもシェーファーのあの万年筆は店長のポケットに入っていたり、机の上に置きっぱなしだったり(笑)。店長、大事にしようよ。

ちなみに店長、シェーファーは私の知る限り、アメリカ発祥のメーカーですよ。そのPOP、大丈夫?それに、そのギャグ、もう、わからないでしょ、みんな。
「この万年筆は、シェー!と言ってしまうほど、いい万年筆です」

(フィクションです)

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