呪術廻戦の面白いポイント「縛り」

◆呪術廻戦の総評

 いろんな作品に影響を受けているため、悪く言うとパクリと言われる。が、同じ出版社のオマージュなので、後は読み手がどう読むかという話ではないだろうか。ミーハーも巻き込むなら、過去の面白い漫画が発明した型を真似した方が合理的だし、キャラ造形や設定や描写が人気作に似るのは、商業作品らしい戦略だと思う。

 ポスト鬼滅と呼ばれるのは、鬼滅が異様に流行ったため、その後釜につけば売上が伸びるからだろう。個人的にはポストBLEACHというほうがしっくりくる。似てるからというより、「視聴者が作品に期待しているポイントが『オサレ』なところ」という気がするから。

 呪術廻戦のオリジナリティは「たくさん作中で説明してるのに、設定がよく分からないほど複雑」なところ。BLEACHは設定を作中で語らないからよく分からないのだが、呪術廻戦は元から複雑過ぎて分からない。伏線として隠している感じでもなく、宗教の教典レベルの量の世界観が先に提示されている感じ。これは後述するが、作家が非常に理屈っぽく、作中の設定の隙間を全部埋めたからだと思われる。要するにすべて理由がある、という世界。


◆呪術廻戦の特異性「縛り」

 個人的に呪術廻戦で一番面白いのが「縛り」という概念。これは簡単に言うと「ハンデを設けて強くなる」ということだが、HUNTER×HUNTERの「制約と誓約」とは違うポイントがある。

 それは「呪い」であること。言い換えれば「他人から課されることがある」こと。何が面白いかというと、『人の繋がりや別れが強さの理由となる』、つまり「エモい関係性が強さに繋がるという理屈がある」ということだ。


 これが他の漫画では見られないオリジナリティで、普通はキャラに独白させ「勝ちたい思いや守りたい気持ちなどの感情が強さに変わる」描写を入れることで、戦闘中の覚醒に説得力を持たせる。

 ところが呪術廻戦は、そういったある意味の「根性論」ではなく、縛りや呪いで強くなる。だからキャラが退場するとき、言葉で感情をキャラに語らせるのではなく、『行間を読ませて』強さを想像させる。


 縛りの設定があることにより、例えば1人の独断による大義といった抽象的な理想よりも、2人の互いへの呪いである「純愛」が勝ることが起こり得る。また、死ぬ前の最期の言葉は、託された者への呪いとなり、避けようのない運命と力を方向づける。


 ある意味、感情的に強くなることに理屈をつけることは「野暮」かもしれない。だが、そうしたシーンは決して説明的ではなく、象徴的に描写されている。

 例えば死は「川を渡ること」であり、その前に手渡された物は約束である。事実で語られるのは「死」だが、そこに意味や感情、人の繋がりが込められていると読み込める。


◆ニュース記事のページ

 余談だが、呪術廻戦の特徴的な描写法に『ニュース記事のような死亡人数と状況が書かれたページ』がある。これは客観的には事実を語っているだけだが、主観的に物語を追ってきた読者にとっては別の受け取り方ができる。

 文字をそのまま受け取るのではなく、行間を読んで、そこにキャラクターが足掻いた軌跡を想起する余白がある。知ってる人が関わるニュースは関心の持ち方が違うように、ストーリーを知ってるからこそ、味気のない淡白な文字に意味を汲み取ろうとする。

 呪術廻戦には語り手がおらず、歴史の記述のように数字と分かりやすい出来事のみ、現場にいなかった人には伝わる。しかしそこに居た人にとっては、感情が揺さぶられ呪いを伴うほどのリアリティだったかもしれない。


 このように呪術廻戦は、思いが強さに変わることすら理屈がつく世界観である一方で、感情描写については行間を推察させるような余白がある点に魅力がある。

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