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灯台

2021年7月、オリンピック真っ只中の連休は実家に帰った。奇跡的且つ強引に行われたオリンピックが開催されている休日は、家でのんびり過ごしたかった。

母は年々スポーツ観戦が好きになっている。この間なんて、何しているか尋ねたらライジン(格闘技の試合)観てると言われて少し笑ってしまった。

2泊3日の帰省は、とても暇である。分かってはいたが家にいる間は、ご飯を食べて猫を愛でて、妹と映画のセリフゲーム※をするくらいだった。(※セリフを言って映画のタイトルを当てるゲーム、特にジブリかディズニーが多い)

今回は五島で過ごす最後の夏になるから、観光地巡りを目的としていた。
教会も海もいって、灯台も行った。
灯台までの道のりは、家から車で1時間かかる。到着してから山道を1.5km降り、もちろん帰りは同じ山道を1.5km登る。
道すがら何度引き返そうかと思ったか分からない。25歳喫煙者の肺は、想像以上の衰えだった。
しかし、着いてみたらとても良い。崖の上で吹く風が、まるでタイタニック号の船首みたいだったし、湧き上がる波はかき氷のブルーハワイ色をしていた。命からがら帰路を辿った後のコーラほど美味しいものはなかった。

過去に一度、同じ灯台を訪れたことがある。私が小学校低学年の時だったので、記憶は曖昧だった。
帰って母に話すと、覚えていないのは当たり前だと断言された。理由は明確で小学生の私は、なんと父に背負われ帰ったという…。どうりで過酷な山道を覚えていないはずである。あの山道を、私を抱えて登る父が想像できた。
何処までも甘い父を愛しく思った。そしてそんなとも覚えてくれている母からは今も昔も愛されていた。

もうあの灯台へ行くことはないかもしれない。でも少し、家族4人で訪れたいとも思った。そうしたら父の背中くらい押してあげよう。

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