アコギ部と高校生活
勉強が嫌で、制服が嫌で、とりあえずギターを弾きたくて。ただそれだけで受験する高校を探していた。
勉強しなくても受かるし、校舎綺麗になるらしいし、ピアスOK自由服。部活以外完璧。でもアコースティックギター部なんていうから泣く泣く候補外に。
一応調べたらどうやらアコギだけじゃないらしい。むしろアコギ弾いてる人は少なくて、死にかけのクソジジイが柄の悪い生徒たちと徒党を組んで使われていない教室を占拠してるって。マジで意味がわからなかった。
とりあえず見学に行った。中学の制服を着たクソガキが神代の一番上まで階段をのぼった。
階段の途中から所狭しと楽器が並んでいて、何人もの先輩が廊下で床を叩いたり、生音でギター弾いたり、駄弁っていた。正直めちゃくちゃ怖いよ。
他に見学の中学生はいなくて、でも勇気をだして扉を引いた。
マジで意味がわからなかった。
なんかデカい声で怖い先輩が叫んでるし、床も壁もボロボロだし、壊れた楽器がその辺に散乱してる。なにより音がうるさい。てかスピーカーデカすぎでしょ。
その時は普通に蛍光灯がついてて、あのステージライトじゃなかったけど、それがむしろ空間の狂気を際立たせたと思う。
結局学校見学はアコギ部を見ただけで、そのまま帰宅した。帰りながらこの学校を受験しようと決めていた。
入学後、脳死でアコギ部に入った。入部届け出すの一番乗りだったんだよね、ドラム超上手い先輩が「よっしゃー!部員ゲット!」って言ってた記憶がある。
ちなみにアコギ入ったらバンド組もうねって言ってきた奴は他に行った。
オリエンテーション的なので例のきったねえ部屋(地学室)に招集された。ちなみに我が校に地学はない。先輩が部屋の端っこの机にのぼって楽器弾いたりしてて怖かった。顧問はホームレスにしか見えない。
前に出て自己紹介をさせられる。喋った後「君首すわってないね」なんて言われた。顧問が何言ってるのかは一つも聞き取れず終わる。
んで、いきなりバンドを組まされる。僕ともう2人が一緒にやるってことになってたから、なんか派手な女の子2人に声をかけてそのままバンドは結成した。ちなみにそれはしっかり解散してる。
そうして組んだバンドでしばらく練習して、初めて発表することになった。3バンドだけなんだけど、僕らはそれに選ばれた。
ちなみに、僕がずっと愛用してる赤いジャズマスターは入学祝いでおじいちゃんが買ってくれたもの。この発表会の直前に急死して結局そのギターを弾く姿は見せられなかったことが今でも悔しい。
その発表会の出来は別に良くなかった。けど、バンド楽しいなって思った。
それからはあんまりよく覚えてない。というのも、入学初日に声をかけられてその後付き合った人がメンヘラエンジン始動して僕は割と孤立していたから。黒歴史と一緒に高一のほとんどの思い出が封印されてしまった。まあ今の僕なら当時の僕と関わりたくはないね。
みんなは地学室が大好きだった。友達がいなくても、地学室に行けば誰かいるし、オセロしたり楽器弾いたりカップ麺食べたりできる。埃まみれだけど愛に溢れていた。
僕らはこの場所がなくなることなんて忘れ切っていた。
神代は新校舎に移転する。運よく僕らが占領していた地学室の代わりなんて、新しい校舎に作られるわけがない。地学ないんだし。取り壊されるその日まで、地学室の裏にあった黒板は新品のカバーがかかっていたくらいには授業なんかじゃ使われなかった。あの教室で綺麗なものなんてそのくらいだった。
自分らの場所は自分らで片付けるんだということで、先輩たちが地学室を片付け始めた。もので溢れる汚い教室はガラ空きになった。壁に書かれた田渕ひさ子のサイン(偽物)を、そうと知らない僕らは必死で削って剥がした。その後ふざけてみんなで壁ぶっ壊した。
新校舎に移転した僕らは一気に肩身が狭くなった。地学室のなくなったお前らなんか怖くないとでも言うのか、先生たちからの風当たりがやたらキツい。 とにかくアウェーを演じて、集まって蒙古タンメン食ったり廊下で音出したり。何度も怒られてた。いよいよ廊下に置いてる楽器が邪魔とか言われ出した。でも僕らの歪んだ常識を続けるのは楽しかった。
顧問いなくなったりコロナになってからはよく分からない。どうやって生きてきたのかもよく分からない。気付いたら受験が終わって、気付いたら卒業してた。部活が満足に出来なくなってからは、部員ともあまり話さなくなった。
ところで、アコースティックギター部の名前の由来って知ってる?
バンドのボーカルの子達全員がしっかりアコギで弾き語りできるようになってほしいって気持ちでつけたらしい。実際あの顧問はボーカルの評価が厳しかった。音楽祭の担当も彼だったし。
アコースティックギター部という名前がある限りは、その精神は忘れないでいてほしい。
後輩たちの面倒もほぼ見れなかった。人も場所も環境も変わって、この先アコギ部がどうなっていくのかは純粋に気になる。どうせなら、上の世代のしがらみがない分変えたいように変えてほしい。
でも、あの日の休み時間に見た、教室の隅でギターを弾いている名前も知らない後輩。あんな子がいるなら多分この先もアコギ部はアコギ部のままでいてくれる気がした。
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