ドロップが分かった気がした

この前の朝方、仕事から帰って部屋の電気は消したままタバコを吸っていた。
外がだんだんと明るくなって、薄ぼんやりと窓が青く光っている。
換気扇を回して、イヤホンで曲をかけた。曲を選ぶのがめんどくさくて、適当にシャッフルでかけた。
眠れない時は大抵こうして眠気が来るのを待つ。大抵眠気は来ない。

ソファに座って、前にかがみ込むようにしてタバコに火をつけた。
一曲目に何をかけていたか忘れたけど、2曲目にドロップがかかった。
ミッシェルの。ラストライブの一曲目だ。

なんかやけに曲に持ってかれた。

そんなかで、やっと詩の意味が分かったような気がした。

ーー
ぶらぶらと夜になる
ぶらぶらと夜をゆく

じりじりと夜になる
じりじりと夜をゆく

神の手は
にじむピンク

なめつくした
ドロップの気持ち

thee michelle gun elephant ”ドロップ”
ーー

夕方から夜になる時間帯を歌う曲だ。だんだんと暗くなっていく中途半端な時間。
なめつくしたドロップの気持ちが実際どういうことだかは分からないけど、
多分溶けてなくなっていくのと少しずつ落ちていく感覚が一緒になっているのは間違い無いかと思う。
映画の「青い春」の挿入歌だし。色々と掛かってるんだろうなってか、ダブルミーニングは良く他の歌詞でもやってるし。

そんな話はどうでもいいや。

「神の手はにじむピンク」

この歌詞の意味が長いこと分からなかった。何でにじむピンクなのか。
神の手ってなんだとか。

なんとなく向こうから伸びてくる、或いはだんだんと消えていく夕日の光的なものとか、朝になって差し込んでくる朝日的なのを想像してたんだんけど、どうやら違うのかなって違和感はずっとあった。他になんかありそうだなって。

でも聴いたタイミングが良かったのかやっと分かった気がした。
多分自分の手のことだ。タバコの火を手のひらの内側にして包み込むようにして持つと手がぼんやりとピンクに滲んで見えた。
もしかしたら、タバコに火をつけるライターの火の灯りかもしれないけど、どうやら暗がりでタバコを吸っている時の曲なんじゃないかなって確信めいた手応えがあった。

そう思って聞くと、何か諦めたのか、決断したのか、迷っているのか、やるせない歌詞だなって思った。気は落ちてるけど、手には小さな光を湛えていて少しの希望はあるような感じもする。夜にどっかぶらついて、タバコを吸った。それだけのことを歌ってるのに、なんでこんなに響いたんだろ。6/8で淡々と刻むリズムに乗せられて、とりあえず歩くかって気にもなる。荒れてもいるし穏やかでもいる。言葉足らずな歌詞が、音で補われてイメージが膨らむ。すげーなって思った。ロックってこれなんだよなって。それに、今の自分の状況と大差ないじゃんかとも思った。

聴き終えて、また火をつけた。じっとタバコを持った手を眺めてると、今日はもう眠れるなって思った。
今日はもう終わりだなって。

この時にやっと、チバが死んだんだって実感できた気がする。

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