今回で12回目のASYLUM in Fukushimaに向けて
1.はじめに
東日本大震災からまもなく12年が経ちます。
自分にとって東日本大震災との時間軸は思い起こす度に変わるように感じています。
そして、どれほどの時間が経っても被災された方の思いは計り知れないです。
毎回自分への戒めと感謝、そして確認をさせていただいているのが、2012年3月11日から福島県で開催させていただいているイベント・ASYLUM in Fukushimaです。
改めて自分が2011年3月11日の“あの日”からASYLUM in Fukushima を始めるに至った経緯を振り返ってみようと思います。
2.東日本大震災発生からclub SONIC iwaki への道程
2011年3月11日 金曜日。東日本大震災発生。
震災発生時は長野県飯田市の事務所にいた。
飯田でも揺れは大きく長かった。
震源地を確認した後、東北の知り合いに片っ端から電話したが繋がらなかった。
3月は以前から北海道と東北のツアーが予定されていた。
マネージャーと相談し北海道東北ツアーでお世話になるライブハウスのスタッフや、イベンタースタッフの安否確認と支援物資を届ける事を決めた。
3月11日夕方から飯田市内で機材車の燃料である軽油と、支援物資を買い集めた。
翌3月12日から機材車で東北に向かって移動を開始した。
◉3月12日 土曜日
長野県長野市でLOST IN TIMEのツアー長野公演にゲスト出演。
会場入りしライブハウスの楽屋で福島第一原発1号機の爆発のニュースを知った。
ライブ終了後、支援物資をできるだけ機材車に積載する為に機材を長野市内のライブハウス・ネオンホールに預けスーパー等で支援物資を買い集めた。
3月14日には札幌市内の映画館・シアターキノで開催される是枝裕和監督のイベントにゲスト出演する予定だった。北海道へはフェリーで渡る予定だったが、フェリーが津波の影響で全ての航路で欠航。
北海道へ渡れる手段はこの時秋田空港から飛行機で移動する他になかったと思う。
急遽、秋田空港から新千歳空港へのチケットを手配した。
長野市内泊。
◉3月13日 日曜日
国道7号線を北上し秋田県秋田市を目指した。
前日に共演したLOST IN TIMEのギター・三井さんも秋田市在住のご両親と連絡が取れなかったらしく、安否が心配だという事で急遽秋田まで同行する事になった。
道路には被災地に向かう自衛隊の車、物資を運ぶトラック、救援の車が走っていた。一般の車両はほとんど走っていなかったと思う。
ガソリンはほとんどの給油所で給油できない状態だった。
軽油は給油量に制限はあったが給油させてくれる給油所が多かったので、給油所を見つけるたびに機材車に少しずつ給油を繰り返しながら進んだ。
秋田市に到着し、LOST IN TIMEのギター・三井さんをご実家に送った。ご両親からあたたかいご飯をご馳走になった。
その日の宿泊先の秋田市内のホテルのロビーには、被災地に向かう災害救援、医療支援の方達がたくさんいた。太平洋沿岸の被災地に向かいたいが被災地に入れるルートが無いという会話が聞こえてきていた。
秋田市内泊。
◉3月14日 月曜日
秋田空港で飛行機に乗り換え、北海道札幌市へ移動。
札幌市内の映画館・シアター キノで是枝裕和監督とのイベントに出演。
札幌市内泊。
◉3月15日 火曜日
札幌在住の友人に協力してもらって支援物資をマネージャーと2人で持てる限り買い集めた。
乾電池やラジオがどこも品薄だった。
札幌市内泊。
◉3月16日 水曜日
北海道函館市へバスで移動。
函館市の喫茶店・想苑でライブ。
函館で車ごと津波に流されたが無事だった方がライブに来てくれた。
他のライブが地震の影響で中止になったから、こちらのライブに来ましたというお客さんもいた。
club SONIC iwaki のPA 新妻さんとこの日に連絡が取れたと思う。
「今欲しい物は何ですか?」との問いに「ガソリンをタンクローリー1台分欲しい。」とおっしゃった。ガソリンをタンクローリー1台分は用意できなかった!
函館市内泊。
◉3月17日 木曜日
青函トンネルが復旧。秋田へ向けて電車で移動。
秋田空港で機材車に乗り換えて青森県弘前市へ移動。
沖縄で開催しているイベントSakurazaka ASYLUMの起源となった弘前市のバー・ASYLUMの店主・齋藤さんと合流。
弘前市泊。
◉3月18日 金曜日
電車で青森県八戸市へ移動。
八戸市内のライブハウス・ROXXへ支援物資を届けた。
ROXXのユキさんがあたたかいご飯を作ってくれてご馳走になった。
八戸市泊。
◉3月19日 土曜日
八戸市内を歩いてまわった。
八戸港は大きな漁船が打ち上げられていた。津波被害の凄まじさを目の当たりにした。
その後電車で青森市へ移動し青森放送でラジオ出演。
「こういう時のためにラジオがある、普段のラジオは地震など災害が起きた時の為の練習でもあるんだ。」と青森放送の橋本さんがおっしゃっていた。
青森市内泊。
◉3月20日 日曜日
電車で弘前市へ移動。
震災発生ぶりに少し休息ができた。
弘前市泊。
◉3月21日 月曜日
弘前市内のライブハウス・Mag-Netでライブイベントに出演。
Mag-Netの高取さんからSLANGのKOさんが被災地支援に動いている話を聞いた。
弘前市泊。
◉3月22日 火曜日
弘前市のコミュニティFM・アップルウェーブの番組にラジオ出演。
弘前市泊。
◉3月23日 水曜日
弘前市を出発。仙台に向けて南下。
岩手県内で東北自動車道が通行止めの為下道で移動。
お世話になっている仙台のイベンター・GIPのスタッフを訪ね支援物資を渡す。
その後福島市に移動したが、宿泊できるホテルがなかなか見つからなかった。
何軒か断られてようやく宿泊させてくれるホテルを見つけたが暖房が使えず、お湯も出ない状況だった。布団で寝られるだけ有り難かった。
移動中はどこのガソリンスタンドも長蛇の列だった。
福島市内泊。
◉3月24日 木曜日
福島市を出発しいわき市へ移動。
移動中のラジオで放射能の風評被害でいわき市に支援物資が届かない状況を知る。
磐越道を移動中全国各地から集まったであろう救急車の列を見た。
いわき市内のライブハウス・club SONIC iwakiに到着。
系列店のバロウズに避難していたclub SONIC iwaki の新妻さんに支援物資を渡す。各地の状況を情報交換。
原発が爆発し放射能への不安もあると思い、避難希望者を長野まで連れて帰るつもりでその場にいた人達に提案したが「いわきを離れるつもりはない。」と断られた。
いわき市を出発。
◉3月25日 金曜日
長野市に到着。
ネオンホールに預けていた機材を回収。
飯田市へ帰還。
※当時のTwitterへの投稿履歴や当時の記憶を掘り起こしながらまとめました。
3.ASYLUM in Fukushima 開催に至った経緯
福島第一原発の爆発。
放射能による風評被害。
支援物資が届かない事態が起きたり、避難先で差別的な行動や言動に遭われたり、報道でも問題としてかなり取り上げられていたが被災地に住む人達はきっと深く傷ついていたと思う。
いわきの街に住む人の未来もライブハウスclub SONIC iwakiとclub SONIC iwakiを支えるスタッフの未来も2011年3月24日にお邪魔したその時は全く見えなかった。
放射能汚染が深刻ならいわきの街に人が住めなくなる可能性もあるかもと、その時はリアルに感じていた。
東日本大震災の被災地の惨状を目の当たりにし、被災した人達に何もできなかった自分の無力さを痛感していた。
東北各地を訪ねてまわり数少なくなった支援物資を置いていわき市を離れる時、
「何かこのライブハウスやライブハウスのスタッフの“未来に残せること”は無いだろうか?」と考えた。
“また次に会う為の約束”をどうしても残していきたいと思った。
東日本大震災から1年後の2012年3月11日のclub SONIC iwakiのスケジュールを押さえた。
その時はそれしか思いつかなかった。
時は流れて、あの時は人が住めない街になるのかもと心配していたが、いわき市は避難指定区域にはならなかった。
2012年3月11日にスケジュールを押さえたclub SONIC iwakiで何をするのが良いのだろう?
2007年から企画に関わり、沖縄で開催していた音楽とアートのイベントSakurazaka ASYLUMのスタッフに「ASYLUMを福島で開催したい。」と相談した。
沖縄のスタッフは賛同してくれた。
沖縄のスタッフに背中を押してもらえたからASYLUM in Fukushima をclub SONIC iwaki で開催する事に決めた。
沖縄の友人を通じて福島市のイベントオーガナイズチーム・音連れとの繋がりもでき、いわき市と福島市で2日間開催する事になった。
震災から1年目。福島県内でのイベントは無料のイベントが多かった。
ASYLUM in Fukushima を開催する際にチケット代を徴収するのかどうかを現地のスタッフと話し合った。
「今の福島なら入場無料でもイベントは開催できる。だけど、無料で音楽やアートを楽しめる状態が続いたら福島の文化はダメになると思う。だから初年度からキチンとチケット代は徴収したい。」と現地スタッフから目が覚めるような意見を聞いた。凄いと思った。
福島に住み続ける覚悟が無ければ発する事ができない言葉だと思った。
2012年3月11日。ASYLUM in Fukushima 開催。
初年度のASYLUM in Fukushimaには沢山のアーティストが参加してくれた。
それぞれ強い想いのある表現に溢れていた。
打ち上げでは被災地に対する想いが噴出していた。
被災地に住む人、被災地に想いをよせる人、いろんな想いがあり、いろんな事を話し合った。考え方の違いなどで喧嘩みたいになった事もあった。
最初は、“また次に会う為の約束” を残したい。
ただその思いだけだった。
けれど、2012年から毎年東日本大震災が起きた日にいわき市や福島市に毎年お邪魔して、ASYLUM in Fukushimaを開催し続けていくうちに、
震災で亡くなられた方や、行方不明の方が会いたい人の元へ帰って来られるように、この日には賑やかな音が鳴っていて、じゃんがら念仏踊りが聴こえてくる。
例えれば、お盆に家族や親類が故人を想い集まるような、そんな場所であれたらいいなと思うようになった。
ASYLUMという言葉の意味は辞書によると、
1.保護施設、難民収容所、児童養護施設、養老院、養育院、精神科病院
2.避難所、安全な場所、隠れ家、聖域
3.〔政治犯の〕亡命、庇護
という意味らしい。
どれも社会的に立場の弱い方や、社会に適合しにくい方を保護する場所のイメージが強い。
英語圏の国の方に聞いたところ、少し怖いイメージの言葉らしい。
ASYLUMという言葉の意味から考えると、ASYLUMが存在しない(必要がない)世界のほうが本当は良い世界なのかもしれないとも思う。
いつか、「ASYLUMはこの街にはもう必要無いよ」と言われる日までASYLUM in Fukushima を続けていくんだと思う。
そんな日がいつか来ることを願い続けていたいと思う。
4.最後に
被災された方を想うと節目という言い方や、何年目という数え方をする事が果たしていいのだろうか?という思いは常にずっとありますが、震災から12年の月日が経ち、東日本大震災が起きた時に自分がどんな方たちに出会えて、どんな風に動いていたのか。どんな思いを被災地に住む人達から頂いたのか。どうして東日本大震災が起きた日にASYLUM in Fukushima を開催し、福島にお邪魔するようになったのかをもう一度振り返って確認したくなり、このように文章にしてみました。
毎晩余震が続いている中で被災地にお邪魔してお世話になった方の気丈な振る舞い。あたたかいご飯。ラジオから流れる言葉。
あのような状況下で心もとない気持ちを支えられたのは自分自身のほうだったのではないかと思います。
お邪魔した被災地の方々は、ご自身も被災されているのに、他の被災地の方のことをとても心配しておられたことも強く印象に残っています。
12年の間多くの自然災害や、世界中が混乱したコロナ禍も未だ終息への途中ではありますが、
ASYLUM in Fukushimaは今年も開催されます。
12年経っても2011年3月11日の“あの日”への想いを持ち続けてASYLUM in Fukushima に参加してくださるアーティストの皆さん、スタッフ皆さん、そしてお客さんに心から感謝します。
今年も3月11日はいわき市に、3月12日は福島市にお邪魔します。
どうか今年の3月11日が皆さんにとって心穏やかに過ごせる日でありますように願って。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
2023年3月8日
タテタカコ
ASYLUM in Fukushima 2023 公演情報
【ASYLUM 2023 in Fukushima-DAY.1】
2023年3月11日(土)@福島県いわき市・club SONIC iwaki
OPEN 16:30|START 17:00
チケット:◆ SOLD OUT‼︎
【出演】
タテタカコ /渡辺俊美/ the LOW-ATUS / ALKDO /ミーワムーラ/三ヶ田とくにお
伝統芸能:じゃんがら遊劇隊(じゃんがら念仏踊り)
【ASYLUM 2023 in Fukushima-DAY.2】
2023 年3月12日(日)@福島県福島市・正眼寺
OPEN 16:00|START 16:30
前売4000円/当日4500円+別途500円(ドリンク)※小学生以下無料
チケット:▲ 残り僅か!
【チケット販売】
イープラス:3/12|1日券
https://eplus.jp/sf/detail/3806160001-P0030001P021001?P1=1221
club SONIC iwaki 店頭
(福島県いわき市平大工町9-9-2)
AS SOON AS店頭
(福島県福島市大町1-16)
【出演】
タテタカコ / ALKDO / とんちピクルス / abukutatta
LIVE PAINT:ヒロカネフミ
DJ : ANON ID / DARKMAN / oop / SHOGO
出店:Books & Cafe コトウ / Hoo Chy Coo
◉総合INFO◉
club SONIC iwaki
mail:sonic-iwaki@sonic-project.com Phone/FAX:0246-35-1199
http://www.sonic-project.com/~sonic-iwaki/
主催:ソニックプロジェクト、感物屋、音連れ
協力:桜坂劇場、Sakurazaka ASYLUM、音楽茶屋ごりごりハウス、Koshigaya ASYLUM
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