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性的不能の男

結婚して間もなく、
夫が性的不能になった。
長らく患っていた糖尿病の合併症
として心筋梗塞を起こした結果
である。

勃たせてくれ…..

絞るような声で哀願する夫。
来る日も来る日も青ざめた表情で
下着を取る夫に、
私は思いつく限りを試した。
顎がはずれかけて顎関節症を
引き起こしても、
手首が腱鞘炎になっても、
何とかしようとした。

当初は射精こそないものの、
辛うじて勃起はしていたのに、
何の反応もなくなってしまった。

私がいくら頑張っても、
夫の性器が息を吹き返すことは
なかった。


心筋梗塞発症後、担当医から、
心臓に負担がかかりすぎるため、
今後の性生活は諦めるように
言われていた。
医師がこの勃起不全まで見通して
いたのかはわからないが、
この期に及んで、
循環器専門である担当医に
この事態を相談するわけにもいかな
い。

結婚前から、
夫の性器の反応の様子に
疑問を抱いていたにも関わらず、
私はあまり気に留めずにいた。
夫と私は十二歳違いである。
中年男性にはこんな事もあるのかも知れない、と思った程度だった。

体調を崩して訪れた病院の婦人科医に、子供は作らないのか、
と訊かれて、私は号泣した。
私は三十四歳。子供を産むのなら
急がねばならない。

勃起射精がなくとも、精子を採取する事はできると医師は言う。

問われるままに私は夫との生活全体
を伝えた。
あなたが体調を崩しているのは
当然のこと。
あなたは御主人を庇うように話す
けれど、
御主人のあなたへの気遣いは
全く見受けられませんよ。
性的行為以外のことも
完全にDVの範疇です。
いずれにせよ、御主人を連れていらっしゃい。
話し合う必要があると思います、
御主人があなたに手をあげない
うちに。
医師は念をおすように言った。

病後も相変わらず帰宅の遅い夫を待ちながら、
私は話をどう切り出そうか考えていた。
夫の反応が怖かった。

そして、突然思い出す。
こともあろうに、通り過ぎてきた
イタリアの男たちのことを。



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