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休校中の高校生へ「いま、やってほしいこと」

先日、大学受験関連の会社の方と話をしたとき、「やる気のある子は休校中の今こそ、(他の人と)差をつけるため勉強に集中している。ウィルスなんて関係ないようだ」ということを言っていました。私の教員経験でも、グン⤴と力を伸ばす生徒は、受験勉強を始めると「仙人」のように世間から離れて、ただひたすら参考書とノートに向き合う子たちでした。受験が終わって、この1年で急に有名になった芸能人のことをまったく知らず、「浦島太郎みたいだ」といっている生徒もいました。しかし新型コロナ禍真っ只なかの今、本当にそうなのでしょうか?

分断されていた諸分野がつながる興奮

巷には、新型コロナウィルス(COVID-19)についてさまざまな情報が流れている。さまざまの情報というのは、自然科学、社会科学、人文科学あらゆる学問領域からの内容を含んでいるということだ。たとえば「人との接触機会を減らす」ということについて、感染症の専門家がその有効性についてや、なぜ8割減らすことが目標となったかを解説している。同じ話題について、経済や経営学の研究者が人の移動と経済の関係から、予想される経済損失について話をしていたり、新しい消費の傾向やビジネスの動向について意見を述べている。また、外出を制限されたときのストレスについて、心理学の専門家が話をしたり、有名な古典文学や歴史上の出来事を紹介しながら「閉じ込められること」の人への影響を話している。このように新型コロナにまつわる、ある出来事について、専門家がそれぞれの分野からいろいろな発信をしているのだ。同じようなことが「PCR検査と医療崩壊の関連」「布製のマスクを2枚配布するという政策」「都市のロックダウン」等々でなされていて、挙げればきりがない。そしてそのどれについても、いまの私たちの身近な事柄であり、関心のある話題ばかりなのだ。

「志望する学部を選択する」ということで、学問分野を区切って考えることが当たり前となっている。専門知それぞれが、「独立峰」のように他とつながりのない別々なものと捉えている高校生が多い。しかし、生活の中の身近な話題とさまざまな専門知とは結びついており、その専門知はそれぞれ巧みに組み合わされている、ということを知る経験は、大学で学ぼうとする学問の印象を大きく変えることだろう。

知識の「つながり」と「広がり」を確認できる悦び

新型コロナに関わる出来事について、正反対の見解が述べられているものがいくつもある。どちらかが誤りの情報で、もう一方がそれを訂正しているものもあるが、正誤がすぐに判断できないようなのもたくさんある。「PCR検査数が多いことが、医療崩壊につながる」といった話題などが良い例だろう。このような話題での賛否の意見とその根拠を確認することは、知的なトレーニングとなって楽しい。前に記した例でも、PCR検査の精度(特異度・感度)や検出限界の視点から医療崩壊につながる可能性を述べる意見や、他国の対策状況から二つを結びつけることに否定的な意見など、さまざまな視点や側面から議論されている。ネットの情報を少し調べると、賛の意見も否のそれも面白いようにたくさん出てきて、読むだけですぐに専門家気分が味わえる。そして、それぞれの意見に使われる専門用語や統計資料をさらに調べていくと、枝がどんどん広がっていき、知識のつながりと広がりが実感できる。そこには理系や文系といった境界も、自然、社会、人文といった区別もない。このような時間こそ確かな学びのときであり、教室のなかではなかなか体験できない。

ここで一つ確認しておきたいことがある。ここで言う賛否の意見と根拠の確認は、その話題についての正しい判断を導き出すためのものではない。これは、その話題での議論を使って、他者の意見の本質を読み取る練習をするためのものだということである。「ネットの情報は無責任で、不確かなものや誤ったものが多い。だから、より確実な一次情報を見て判断しなければいけない。」というのは真理である。論文やレポートを書くときには守るべきことだろう。しかしここでは、他者の意見の本質を読み取る能力を鍛えることを目的としたい。そしてこの力は、複数の人と議論したとき、さまざまな意見の中から少しでも確かな意見を見定め、それをもとに間違いのない方向にチームを進めていく「協働」の力にもつながると考えている。

意見と根拠がかみ合っていないものや根拠の薄い意見を除外していく「勘」のようなものは、「いいかげん」と「確実」両方の意見を多く鑑定していくことから育っていくようだ。その点で、特定の話題について、玉石混交で雑多な意見が示されている「いま」のネットの情報は、とても良い教材であり、一次二次にこだわらず拾うことは有効である。

自分の頭で考える「思考訓練」の絶好の機会

これまで記したことを整理してみると、

日常からテーマを見出す→関係する情報の収集・整理→つながる知識の獲得→情報の分析・鑑定→意思の決定・共有

ということになる。この流れは、人が何かを考える「思考」の流れそのものであろう。それぞれの段階ごとに記録をとることで、意識的に「思考」の道筋を整える訓練になるはずだ。

いまだから本当の学力を身に付けよう

教室での授業がなくなり(少なくなり)、勉強や学力に対して不安ばかりが先行して、何をすべきかわからない。オンラインの授業や出された宿題をやるだけで、教室での授業よりも受け身の学習になってしまっている。そんな高校生がいたら、ぜひネットやTVを活用してこの思考訓練を実行してほしいと思います。

高校3年生は、それどころではないと思うかもしれませんが、受験勉強の合間でいいので、またはなんとなくSNSを眺めているとき、この情報の根拠は?ということを考えるということでもいいので、やってみてください。特にAO入試や推薦入試の受験を考えている人は、ぜひやってみてください。なぜなら大学が求めているのは、上に書いてあるような思考力なのですから。そして、高校1、2年生は騙されたと思って、ちょっとでも試してみたらいかがでしょう。きっと学ぶことの面白さがわかってくるはずです。

学びの楽しさを知っていることが、本当の学力なのです。

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