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国際財務報告基準:連結財務諸表の作成

【IFRS第10号の連結財務諸表】
IFRS第10号の連結財務諸表は、『親会社及びその子会社の資産、負債、資本、収益、費用及びキャッシュフローを単一の経済的実体のものとして表示する企業集団の財務諸表』と定義しています。

日本基準の判断は、議決比率が基本となりますが、IFRS適用した場合は、議決権を含む次の3つの要素(①投資先に対するパワー、②投資先への関与により生じる変動リターン、③パワーとリターンとの関連(本人か代理人か))を全て有している場合、投資先に対して「支配」を有すると判断されます。よって、IFRSは、日本基準と比較して、連結範囲がより広範囲になる傾向があります。次に詳しく解説します。

【支配の概念】
IFRSでは、3要素を考慮して、投資先を支配するかどうかを決定します。3要素とは、①投資先に対するパワー、②投資先への関与により生じる変動リターン、③パワーとリターンとの関連(本人か代理人か)の観点であり、これら3要素の全てを投資者が有している場合、投資先を「支配」していることになります。支配の定義は、『投資者は、投資先への関与により生じる変動リターンに対するエクスポージャー又は権利を有し、かつ、投資先に対するパワーにより、当該リターンに影響を及ぼす能力を有している場合には、投資先を支配している』となります。

①【投資先に対するパワー】
投資先の支配の判定については、最もわかりやすいのは、議決権の過半数を有する投資者が投資先を支配している場合です。議決権に関する投資先の支配の判定要件のほか、IFRSでは、議決権に類似する権利が投資先のリターンに重要な影響を与えないケースが検討されます。

【議決権の過半数を有する投資者が投資先を支配している場合】
議決権の過半数を有する投資者が過半数を伴う場合、次のいずれかの状況が満たされた場合に、パワーを有するとされます。①関連性のある活動が、議決権の過半数の保有者の議決によって指図される(実務上、頻繁に判断されるケース)。②関連性のある活動を指図する統治機関のメンバーの過半数が、議決権の過半数の保有者の議決権行使によって承認される。なお、パワーとは、『関連性のある活動を指図する現在の能力を与える現在の権利』とされています。また、『関連性のある活動』とは、『投資先の活動のうち、投資先のリターンに重要な影響を及ぼす活動』を意味します。

一方で、議決権の過半数を有していない場合でも、パワーを有する可能性があります。例えば、投資者が、潜在的議決権を有している場合です。潜在的議決権とは、転換社債や新株予約権など権利を行使した際に株式保有につながるものを指します。次に、若干重要性は落ちますが、”議決権に類似する権利が投資先のリターンに重要な影響を与えない”ケースにおける支配権の獲得判定プロセスについて、説明します。

【議決権に類似する権利が投資先のリターンに重要な影響を与えない場合】
投資者は、投資先に対するパワーを与える十分な権利を有しているかどうかを決定するため、それらの契約上の取り決めを次の事項を考慮して、評価する必要性があるとされています。これらは、①投資先の目的及び設計、②投資先の関連性のある活動、③投資先の活動についての約束、④パワーの証拠及び指標となります。

上記②投資先の関連性のある活動についての設例を説明します。設例の前提条件は次のとおりです。まず、投資先は、複数の投資者から債権を購入し、日常的な回収サービス業務を提供することを唯一の事業活動としています。次に、投資先は、特定の投資者とプット契約を締結しており、債権が不履行になった場合は、その債権は、当該特定の投資者に、自動的に売却されます。この場合、特定の投資者は、投資先にパワーを有していると言えるでしょうか。回答は、Yesです。2点考慮します。1点目は、投資先の関連性のある活動であるか、2点目は、投資者は、投資先のリターンに重要な影響を与える意思決定権限を有しているのか、ということです。このケースは、2点を満たしています。1点目は、不履行発生時の債権管理活動は、投資先のリターンに重要な影響を与える可能性があり、投資先の関連性のある活動といえます。2点目は、プット契約の条件は、全体的な取引及び投資先の設立と不可分のものであるため、投資者は、投資先のリターンに重要な影響を与える意思決定権限を有していることになります。

②【投資先への関与により生じる変動リターン】
投資先を支配しているのかどうかの判定には、投資先への関与により生じる変動リターンを受益しているのかで判断されます。変動リターンの概念は広く、配当、その他経済的便益の分配、税務上の便益、清算時の資産の残余持分、独占的な知識へのアクセス権利などを含みます。

③【パワーとリターンとの関連(本人か代理人か)】
意思決定権を有する投資者(意思決定者)が、投資先を支配しているかどうかを判定する場合には、自らが本人か、代理人のいずれかであるか、明確に判断されている必要があります。つまり、代理人は、意思決定権限を行使する場合であっても、投資先を支配していることにはなりません。本人であると判定されるためには、特に次の4点を考慮します。1点目は、意思決定権限の裁量が広いこと、2点目は、意思決定者の排除が困難であること、3点目は、意思決定者の報酬が、業務に相当していること、4点目は、リターンの変動性は、投資比率相当のエクスポージャーにさらされていることです。

ここまでは、支配の概念の話しでした。まとめますと、支配の概念は、①投資先に対するパワー、②投資先への関与により生じる変動リターン、③パワーとリターンとの関連(本人か代理人か)の3点を考慮して、投資先を支配しているのかどうかを、継続的に検討することが求められます。

【連結決算手続きの前提】
子会社の財務諸表と連結財務諸表の日付
連結財務諸表の作成に用いる親子会社間の財務諸表は、同日の報告でなければなりません。親会社の財務諸表と同日現在で追加的な財務情報を作成することが、実務上不可能な場合は子会社の直近の財務諸表を利用することができますが、乖離期間で生じた子会社における重要な取引又は事象の影響を連結財務諸表に反映することが必要です。ただし、いかなる場合においても、子会社の財務諸表と連結財務諸表の日付の乖離は、3か月を越えてはならないとされています。

親子会社間の会計方針は、統一する必要があります。なお、在外子会社の会計方針においても、IFRSでは、日本基準と異なり、統一した会計方針を要求します。例えば、棚卸資産の原価算定式では、IFRSでは、日本基準のようにIFRS又は米国会計基準の範囲で容認することはせず、IFRSで容認される平均法又は先入先出法のいずれかを統一し、グループ内で、適切な修正を行うことが求められます。

連結開始時期は、みなし取得日に関するルールはなく、子会社の収益・費用は、子会社の支配を獲得した時点から、連結財務諸表に含めます。日本基準とは異なるため、注意が必要です。日本基準では、連結財務諸表に関する会計基準注解5において、支配獲得日が子会社の決算日以外の日である場合には、当該日の前後いずれかの子会社の決算日に支配獲得が行われたものとみなして処理することができるとされています。よって、仮に買収した企業が5月20日であれば、日本基準では、四半期決算に準じて、6月末をみなし取得日として会計処理を行うことができますが、IFRSでは、実際に支配を獲得した日を支配獲得日とします。

【連結会計処理】
連結会計処理においては、親会社・子会社の資産・負債・資本・収益・費用・キャッシュフローをまず合算します。大きな流れとしては、次のとおりです。

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