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不正会計について考える【全社的な内部統制の弱点】

最近の不正会計の傾向として、3つのテーマ(経営者による内部統制の無効化・不十分な子会社管理・棚卸資産に関する不正)を実例を交えながら取り上げてきました。

後から検証すると、不正会計が起きてしまった会社には、すべからく内部統制の弱点があったことが指摘されています。「後出しじゃんけん」と言ってしまえばそれまでですが、未然に内部統制の弱点を認識し改善につなげることができれば、不正会計のリスクを低減することができるかもしれません(それでも、不正が絶対無くなるとは言えないのがツラいところですが)。

今回は、全社的な内部統制の弱点について、ポイントを整理してみたいと思います。

1.取締役会は機能しているか?
不正が起きた会社の中には、取締役会の監督機能が十分に働いていなかったのではないか?と思われる会社があります。例えば、

・不正の疑いについて一部の役員が把握していたものの、取締役会で情報共有されず、十分な議論がなされていなかった。
・不正の疑いについて役員が知り得たにもかかわらず、十分な調査を指示・実施していなかった。

というような事例です。こうした状況を放置しないために、以下のような点に留意する必要があると考えられます。

・取締役会では既に意思決定されている事項の追認に終わっていないか?(起案資料や出席者の発言状況は十分か?)
・監査役等と経営者はリスク評価について深度ある討議を行っているか?
・相談役や顧問が重要な経営判断に関与していないか?

 2.コンプライアンス意識は大丈夫?
業績達成への適切なプレッシャーは企業の成長のために必要なものですが、過度なプレッシャーとなった場合にそれが不正を行う動機となったり、コンプライアンス意識の低さが不正を行うことを正当化したという事案は、比較的多く見受けられます。

そのためにも、普段従業員がどのような意識を持っているかを確認しておくことは非常に重要です。ワークショップの開催やアンケートの実施を通じて、企業風土やコンプライアンス意識の評価をしておくことが考えられます。

3.内部通報制度の実効性は?
不正会計が見つかるきっかけで最も多いのが内部通報制度と言われています。このため、各企業では内部通報制度を準備している会社が非常に多くなりました。しかし、

・内部通報に密告のような否定的なイメージがあり、あまり活用されていなかった。

・グループ内部通報制度が未整備で、子会社の従業員が内部通報を行う機会が用意されていなかった。

というような事例もあるようです。内部通報制度の利用状況については、多くの会社がレビュー(振り返り)を行っていると思いますが、利用が少ない場合は、不正がないと安心するのではなく、内部通報が利用されていないのではないか?と懸念を持つことが重要です。

 4.内部監査は機能しているか?
上場会社の場合、内部監査制度を整備しているケースが多いと思われます。
内部監査が不正発見のきっかけとなるケースも少なくないのですが、内部監査が有効に機能していなかったために、早期発見につながらなかったケースもあるようです。
(内部監査は不正発見のためだけに行われていないということは考慮する必要がありますが)

内部監査が機能しているかどうかのチェックポイントとしては、以下のようなものが考えられます。

・監査対象拠点の選定やローテーションの考え方は明確か?
(リスク評価に応じた選定・ローテーションである必要性)

・指摘事項のフォローアップ(顛末確認)は十分に行われているか?

・財務、経理、IT等に関する知識や経験のある人材が配置されているか?

5.不正を発見する業績管理
 通常、経営者(社長)は事業部門・子会社等の業績報告を受けていると思われますが、実績(数字)をチェックして各責任者の業績評価を行うだけでなく、不正発見の観点から利用することが考えられます。
現実に、経営者の業績レビューから不正が発見されるケースもあるようです。
以下のような視点で業績レビューを行ってみると、新たな発見があるかもしれません。

・右肩上がりの計画については、具体的な行動計画による裏付けがあるか?

・責任者に対して予算の達成見通しや根拠、具体的な施策をヒアリングする。


 【参考資料】
「内部統制報告制度の運用の実効性の確保について」
(監査・保証委員会研究報告第32号 2018年4月6日 日本公認会計士協会)

関西出身の会計事務所ベテランスタッフ「とり君」が教える、税務のハナシ。 国際税務から海外進出・連結納税・連結決算・IFRS 対応・公益法人支援まで幅広くわかりやすく解説します。