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高校生発 ロールモデルをみつけよう!#20 バイオマスレジン福島 今津健充さん

                       取材日 2023年 10月7日 
                       編集長 佐藤心花 

浪江町の駅から東へ国道6号線を過ぎ、一面の田畑を通り過ぎると突如現れる柔らかい色合いの工場。2021年7月に設立され、「ライスレジン」の製造に取り組んでいるバイオマスレジン福島の工場です。
今回記念すべき20人目のロールモデルは、そんなバイオマスレジン福島の社長を勤める今津健充さん。米粒のデザインが施された様々なグッズが並ぶオフィスは、どこかアットホームな雰囲気があり、編集部員からも思わず「住みたい!」との声が上がります。今津さんを取材していると福島県や浪江町、そしてライスレジンにかける熱い思いが伺えました。

日本ならではのライスレジン

皆さんは、「ライスレジン」をご存じですか?
ライスレジンとはバイオマスプラスチックの一種で、その名の通り米を原料に含んだプラスチックのことです。
食用に適さない古米や米菓メーカーなどで発生する破砕米などを処理せずにプラスチックへとアップサイクルしたバイオマスプラスチックの一種になります。
では、「バイオマスプラスチック」とはどういったものなのか?
日本バイオプラスチック協会ではバイオマスプラスチックを、「原料として再生可能な有機資源由来の物質を含み、科学的又は生物学的に合成することにより得られる高分子材料」と定めています。簡単に説明すると、「植物などを原料に含んだプラスチック」のことで、近年カーボンニュートラルの観点から重要視されています。
実は私たちの身の回りにも、たくさんのバイオマスプラスチックが使われています。その一つが、無料でもらえるコンビニのレジ袋。袋の下の方にバイオマスプラの文字が印字されていれば、バイオマスプラスチック由来のレジ袋になります。また、このバイオマスプラスチックのなかでライスレジンが使用されている商品には、「米粒のデザイン」が施されています。他にも、赤ちゃんが舐めても安心の品質にこだわったライスレジンの赤ちゃん用の食器や玩具、またはチェーン店のカトラリーやテイクアウト用の袋、郵便局レジ袋などにもライスレジンが活用されています。
身の回りの商品のなかにある、「米粒のデザイン」をぜひ、探してみてください。

バイオマスレジン福島まで

実は、今津さんは福島県出身ではなく、東京都で生まれ育った方です。もとは、東京の製薬会社に勤めていた今津さん。親友の言葉で、相馬ガスに経営者候補として転職します。また、相馬ガスで地域のために働く中でバイオマスレジンのオーナーと意気投合。結果、バイオマスレジン福島を立ち上げることになりました。
今でこそバイオマスレジン福島の社長として、地域の活性化にも一役買っている今津さんですが、相馬ガスに転職するまでは福島県を訪れたこともなかったそうです。東京出身の今津さんは、この地域への縁「地縁」も、親戚などの縁「血縁」も、まして仕事での関係「業界縁」も全てがありませんでした。「ご縁」が全くない状況の中でも、この地域に飛び込み、相馬ガスの役員として様々な事業に前向きに取り組んできたことが窺えました。また、ご縁がなかった今津さんと地域とのかかわりを強固にした一つに、青年会議所があります。地元の人々との繋がりの多くは、ここで生まれたと今津さんは話します。地元の不動産会社の社長さんや起業家さんなど、地域のために動く様々な人と同じ志を共有できたこと。これが何より大きかったそうです。
話を伺っていて、自身の働く環境の変化や過去に対し重く考えすぎていない様子がとても印象に残りました。何のつながりも持っていなかったところから自分の力で道を作り、今では会社や地域にとって大きな存在となっている今津さんの姿に強い感銘を受けました。

地域のため、そして未来のため

今津さんが社長を務めるバイオマスレジン福島は、ジョイントベンチャー企業です。
ジョイントベンチャー企業とは複数の企業が互いに出資し、新しい会社を立ち上げて事業を行うことをいいます。バイオマスレジン福島では、相馬ガスグループとバイオマスレジングループとが連携してライスレジンの開発・生産を行っています。

なぜライスレジンに着目したのか。
そこには未来に向けての脱炭素への取り組み、さらに日本では米が多く取れるという背景がありました。
今現在、バイオマスプラスチックに使われる植物の多くは、さとうきびやトウモロコシといった海外から輸入されるものに頼っています。そのため、輸入する際に船などの輸送で二酸化炭素を排出してしまいます。しかし米なら日本国内で収穫できるため、輸送時の二酸化炭素の排出が抑えられ、地球温暖化への対策の一つにもなります。

そして、今後のこの地域の在り方についても考えている今津さんは、積極的に浪江町とも協力して事業を行っています。
例えば、原発事故の影響で避難指示が解除になった今も、震災前の2割の住民の方しか戻っていない浪江町で、少しでも多くの住民の方が戻るきっかけとなるよう地元枠雇用を取り入れるなど、地域に根付いた取り組みを行っています。

また、地域に根付いた取り組みの一つに、今津さんたちは浪江町の農家さんと新たに協力し、ライスレジン向けの米の栽培も行っています。浪江町で育てた米は、除染作業により発生した外来種の存在や、原発事故による風評被害の影響もあり、再び安定した生産・販売の軌道に乗せることが難しい状況にありました。その現状をどうにか打破できないかと、今津さんは考えていたといいます。その浪江町でライスレジン向けに米を栽培することにより、安定的な 「量・品質・コスト」が常に維持できるようになりました。古米でも問題なくライスレジンの原料になるという利点を活かし、現在は令和3年に収穫された米を使ってライスレジンを製造しています。

これまで述べてきたものを踏まえ私は「もっと注目されてもいいのに」と率直に思いました。ライスレジンというものが日本で一般的になったらどういう世の中になるだろう。どのくらい二酸化炭素が減るんだろう、ととても興味を惹かれました。

「当たり前」と「大人の責任」

今津さんの今後の目標は、「ライスレジンが当たり前の世界」になること。
相馬ガスの取締役社長でもある今津さんは、自分たちの会社は炭素で商売をしている。また、地域の根幹を担うインフラを扱う企業であり、地域と運命共同体でもあると話します。そんな自分たちが、未来に向けて地域創生や地球温暖化の解決に取り組むことが当たり前であると考える今津さん。
そのため今津さんは、「こんな取り組みをしているなんて凄いですね」というふうにライスレジンの取り組みが、珍しがられるようではダメと考えています。
良くも悪くも震災によって注目されたこの地域。一度ついたマイナスの印象は、簡単には払拭されないからこそ、発信する機会が増えた今、今津さんは「正しく知ること、そして正しく伝えること」を大事にしています。発信を続け、災害を風化させないことが、地域課題の解決やライスレジンの知名度向上にも繋がる、と前を見据えています。

そして、自分は何ができるのか知ることが大切と話す今津さん。これまでの人生のなかで、
世の中には、いろんな分野において「化け物」みたいな人がたくさんいることを実感したとき、張り合うのではなく、客観的に自分を見つめ、出来ることから先ずは取り組む。そう考える今津さんにとって自分にできることは、一度この地域を離れた子どもたちが、戻りたいと思えるような環境や雇用を作ること、と話してくれました。「地元に戻って働きたい」と思える場を設けること。将来、若い人が戻りたいと思ってもらえる環境を作ることこそ大人が果たすべき責任。
その大人の責任を果たすため、ここ浪江で結果を残さなくてはいけない。良くも悪くも震災がきっかけで、多くの地域で広く認識された「福島」。
今津さんは、それを活かすも殺すも自分次第と考えています。

この話を聞いた際、今津さんは、現実的な考えのもと、冷静にそして客観的に物事に対処する方なのだなと思いました。
県外出身だからこその、客観的な視点を持てるのかもしれませんが、今津さんほど福島そして浪江のことをここまで現実的に見て、分析している人はなかなかいないと思います。
今津さんの取材を通じて「地元の企業とはどんなものなのか」、そして「地元の企業で働くこととはどんなものなのか」について解像度が上がったように思えました。

今津さんから高校生へのメッセージ

今津さんから高校生へ2つメッセージをいただきました。
◇「学生のうちにいろんなことを経験する機会を自分から作ってほしい」
東京出身の今津さんは、ご自身の経験から、東京と福島では経験や機会の差が大きい。この差が大きいのは致し方ない。だからこそ、この経験の差が大きくても、学生のうちに時間を有効活用して様々な経験をしてほしい、と言っていました。自分自身の経験したことは自分の財産になる、との今津さんの言葉から、私たちはいろんなところでちょっとずつ冒険して行動し、自分で考え、将来の自分に生かしていくことが大切だと思いました。

◇「人と出会うことを大事にしてほしい」
学生であるからこそ、社会人という立場性がなく、大人同士では話せないようなことも踏み込んで話してもらえることもある。また、世の中にはとんでもなく優秀な「化け物」のような人がいるが、その人と張り合い、劣等感を抱えるのではなく、自分にできることを探してほしい。学生時代の時間そして学生の特権を有効に使って、様々な方の話を聞いてほしい。とのメッセージをいただき、今後の取材活動の励みになりました。

【編集後記】


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