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塗装

オールドジャズマスターの塗装
オールドフェンダーの塗装には当時ニトロセルロースラッカーが採用されています。フェンダーはデュポンやディツラーなど車向けの塗料を扱っていたメーカーから塗料を仕入れていました。当時は基本色に染料を混ぜる形で多くのカラーバリエーションを作っていたため、ロットによって微妙に色味の違うギターが多数存在します。また、複数のメーカーから似た色を仕入れていたため、ディツラーのレイクプラシッドブルーはデュポンのレイクプラシッドブルーよりも緑がかっている、といったこともあったようです。

オールドフェンダーの塗装の厚みは"Film thickness"と呼ばれており、薄いフィルムのような厚みです。塗膜は吸い込み止めのアンダーコート(homoclad、62年の終わり頃からはFuller Plast)、着色層、トップコートのみとなっています。(アッシュ材の場合は目止めされています)また、'63~'64の繁忙期のものにはトップコートやアンダーコートが省略された個体も多く出回っています。

吸い込み止めに使われたhomocladやFuller Plastは、ニトロセルロースラッカーとは異なる種類の塗料です。オールドフェンダーも下地から全てニトロセルロースラッカーだったわけではありません。

CBS期にはサンディングシーラーも導入され、フェンダーギターの塗膜は徐々に厚くなっていきます。67年には塗装にポリエステルが導入され、フェンダーはこれを「シックスキン」フィニッシュと言って積極的に販売するようになります。

サンバースト
アルダーボディーのサンバーストの塗装工程は、まず初めにボディーをイエローの染色液に漬け、次にhomocladやFuller Plastといった吸い込み止めを吹きます。続いてニトロセルロースのレッドとダークブラウンでバースト塗装を行い、最後にニトロセルロースのクリアラッカーでトップコートを吹きます。

サンバースト塗装は当時のストラトに倣い、最初にダークブラウンを吹いた後に境界線にレッドを吹き、必要に応じて再度ブラウンでタッチアップするというものでしたが、繁忙期となる'63頃からは先にレッドを吹いたものも増え、塗装手順に一貫性が無くなります。

尚、現在の国産ギターの多くは先にレッドを吹いています。

64年の秋頃から、サンバーストの手順は最初にフラープラストで吸い込み止めをした後にイエロー、レッド、ダークブラウンで着色するという順番に変わり、非常に隠蔽力の高いホワイトがかったイエローが使われるようになりました。

クリアラッカーによるトップコートは紫外線などの影響で黄色く変色しやすいため、ピックガードを外さないと黄変のない元の色を判別できないことも多いです。

60年代初期はフェンダーの繁忙期だったため、トップコートが施されていない個体や、サンバーストの上に潰しのカラーが施された個体など、様々なバリエーションが存在します。

近年のフェンダー
FenderはCBS期以降、サンディングシーラーやポリエステルを使った分厚い塗装をほとんどのプロダクトに採用していましたが、2012年から登場した新しいAmerican Vintageシリーズでは塗装を大幅に見直し、オールドに似た薄い塗膜を実現しています。吸い込み止めにUV塗料が使われていますが、それ以降はサンディングシーラーなしのニトロセルロースラッカー塗装を採用しているようです。

フェンダージャパン、スクワイヤーではボディーにサンディングシーラーとポリエステルを利用した分厚い塗装が採用されています。サンディングシーラーは削ることを前提とした塗料で、厚みを得やすく削りやすいように塗料に研磨剤が混入されているため、綺麗な仕上げを得やすい反面塗膜が柔らかいのが特徴です。サンディングシーラーを厚く吹いた後、表面を平らにサンディングして導管を埋めることで、鏡面のような仕上がりを得ることができます。
塗膜が樹脂のような柔らかさを持ちますので、ギターに使用した場合はボディーの振動をスポイルしてしまいます。
また、着色層やトップコートに使用されるポリエステルフィニッシュは硬く傷つきにくい塗膜を形成しますが、プラスチックコートと呼んでも良いような、最大3mmはあろうかという分厚い塗膜で、木の鳴りを完全に封じ込めてしまいます。

フェンダージャパン、フェンダーメキシコではネックの塗装はポリウレタンを採用しています。ポリエステルとよく似ていますが、ポリウレタン塗装については、ポリエステルとは異なりかなり薄い塗膜を実現することができ、ラッカーのような経年変化もなく丈夫です。そのため、ニトロセルロースラッカーではなくポリウレタンで塗装を行っているメーカーも多いです。

多くのメーカーがサンディングシーラーを使った厚塗りをしなければいけないのは、塗装欠けやクラックが即クレームになるためで、音質よりも見た目の品質の方が分かり易く、ちょっとした傷やへこみが問題になってしまうからです。

楽器の塗装には
1. 木部を湿気等から保護する
2. 美しい外観を得る
3. 音づくりの1要素として音質に貢献する

といった役割がありますが、あまりにも2が重用視されるようになってしまったという状況と言えます。

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