研究者記念日

今日は人生で初めて参加する学術調査の初日であった。

春からお世話になる大学院の研究室が、ある美術館の収蔵品調査を請け負うということで、まだ学部生の私も参加の機会を得ることとなった。

図録やガラス越しでしか見ることのなかった資料を自分の手で扱うという初めての経験に、私はあたふたするばかりであった。絵画や彫刻と違って扱い方に癖のある資料を専門とする自分にとって、たとえ実習であっても実物資料を扱う機会はこれまで一度もなかった。色や手触りはこれまで視覚から得た情報から想像していたものと乖離する部分が多く、些細なことで傷を残す繊細な資料を扱うのに神経をすり減らせる。こうした作業を数時間続け、初日から疲労困憊である。

帰宅してから初めて知ったのだが、この調査には日当が出るとのことだ。私にとってはむしろお金を払ってでも手に入れられない実物資料の鑑賞の機会であり、資料の扱い方を学ぶ勉強の場であったのだが、それどころか貴重な機会に好きなことを勉強してお金がもらえるらしい。初めて自分の学問や研究という専門知識の対価としてお金が発生した、いわば研究者人生の第一歩である。

学生は一体いつ研究者になるのか、お金を払って勉強していたのがいつから研究でお金をもらえるようになるのか、その境目がどこにあるのかをずっと考えていた。今回の調査で日当が支払われることは、自分の知識が対価を支払うに値する専門性を持つものとして担保されたように思え、3月9日は私の中で研究者記念日となった。

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