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バルコニアン(28) 賢治に誘われ「梅鉢草」を買ってきた

知らないけれど見てみたい

宮沢賢治の作品を読んでいると、知らない動物(特に鳥)や植物の名前が出てくる。植物の中で気になる花があった。それは「梅鉢草(うめばちそう)」だ。

調べてみると、可憐な五輪の白い花をつける(図1)。この五輪の花が梅の花に似ているので「梅鉢草」の名前がある。別名はまさに梅の花、「梅花草(ばいかそう)」とのこと。図1の写真を見ると、納得である。

図1 梅鉢草(うめばちそう)。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ウメバチソウ#/media/ファイル:Umebachisou.JPG

また、「梅鉢」というのは家紋としても使われる。なんと、菅原道真や前田利家の家紋なのだ。菅原道真と言えば学問の神様。それなのに、まったく、知らなかった。天文学者としては勉強不足だった。

図2 「梅鉢」の家紋。 https://ja.wikipedia.org/wiki/ウメバチソウ#/media/ファイル:Japanese_crest_Umebachi.svg

『十力の金剛石』

賢治の作品には「梅鉢草」は10回も出てくる。かなり、お気に入りの花だったのだろう。

まず、短歌を一首。

ひがしぞらかがやきませど丘はなほうめばちそうの夢を載せたり (『【新】校本 宮澤賢治全集』第1巻、筑摩書房、1996年、6頁)

このうたは明治44年(1911年)1月に詠まれたものだ。賢治は盛岡中学校の3年生。ちょうど、短歌を詠み始めた頃の歌である(歌稿 [A]に収められている6番目の歌)。夜明けは近いが、うめばちそうはまだ夢見ごこち。賢治は夜通し山を歩いていたのだろうか? 賢治の夢は、うめばちそうの夢に乗り移っていたのだろうか? 不思議な一首である。

次は『十力の金剛石』の文章を紹介しよう。

 まっ碧な空では、はちすずめがツァリル、ツァリル、ツァリルリン、ツァリル、ツァリル、ツァリルリンと鳴いて二人とりんどうの花との上をとびめぐって居りました。
「ほんたうにりんどうの花は何がかなしいんだろうね」王子はトパァスを包もうとして、一ぺんひろげたはんけちで顔の汗をふきながら云ひました。
「さあ私にはわかりません」
「わからないねい。こんなにきれいなんだもの。ね、ごらん、こっちのうめばちそうなどはまるで虹のやうだよ。むくむく虹が湧いてるやうだよ。あゝそうだ、ダイアモンドの露が一つぶはいってるんだよ」
 (『【新】校本 宮澤賢治全集』第8巻、筑摩書房、1995年、196頁)

ここでは、「梅鉢草」は絶賛されている。

こっちのうめばちそうなどはまるで虹のやうだよ。むくむく虹が湧いてるやうだよ。

こうなると、本物の「梅鉢草」を見てみたくなる。そこで、園芸店に行って、買ってきた。

2種類の「梅鉢草」

その園芸店では、2種類の「梅鉢草」が売っていた。ひとつは「ウメバチソウ」、もうひとつは「神津ウメバチソウ」だ(図3)。

図3 買ってきた2種類の「梅鉢草」。(左)「神津ウメバチソウ」と(右)「ウメバチソウ」。

買ってきた2種類の「梅鉢草」にタグがついていた(図4)。読んでみると、2種類ともに、耐寒性は強いとある。賢治の住んでいたイーハトーブの冬でも大丈夫そうだ。

図4 買ってきた2種類の「梅鉢草」についていたタグ。

それでは開花を楽しみに待つことにしよう。バルコニアンの喜びだ。

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