芝浜(初代 中原中也 作)

夜明けの朝に、財布が一つ
波打際に、落ちていた。

それを拾って、届け出ようと
あっしは思ったわけでもないが
なぜだかそれを捨てるに忍びず
あっしはそれを、袂に入れた。

夜明けの朝に、財布が一つ
波打際に、落ちていた。

それを拾って、届け出ようと
あっしは思ったわけでもないが
    月に向ってそれは抛れず
    浪に向ってそれは抛れず
あっしはそれを、袂に入れた。

夜明けの朝に、拾った財布は
指先に沁み、心に沁みた。

夜明けの朝に、拾った財布は
どうしてそれが、捨てられようか?

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