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高校1年 春①高校生活は理不尽からはじまる

でかい。そして坂しかない。

これが高校を外から見た最初の印象だった。


推薦入試で自己推薦文を白紙で出すというミラクルを起こしておきながらも、無事一般で入学。

家から4つも市町村を跨いだ高校は、乗り換えも合わせると1時間10分の距離。

1時間に1本しか電車がない田舎のために朝6時15分に家を出ないと遅刻という痺れる枷を背負いながら

GW前には一面が咲き乱れると噂の、未だ茶色い桜並木を横目に僕は急な坂を登って学校への道を進んだ。

ワクワクもあり、不安もあり。

いや、不安が大きかったかもしれない。

そういえば振り返ると、入学前から不安の兆候はいくつかあった。

まず、入学前から課題がエグいほどあった点。

まだ学校に入ってもないのに課題あるんかい!とちょっと引いた。


微妙な不安を抱えての入学直後には合宿があった。

地元でも有名な観光地での宿泊にテンションが上がったが、カリキュラムは朝から夜まで勉強のみ。

夜には自習の時間があるが、自習の合間に配られる夜食が美味しくて、それだけが心の支えだった。

授業時間以外は入学前の課題を細かくチェックされて、間違えた場所を随時指導。

ありがたいけど、この高校はここまでやるのかとテンションが大きく下がったのを覚えている。

学ぶための高校生活なのはわかる。

でも、勉強が好きで勉強したくて高校に入るようなタイプではなかった。

だからと言って何をしたいんだと言われても、答えられることなんてまずなかっただろうけれども。

さて、そんなマジで朝から夜まで勉強のみの3日間を越えて、ようやく通常のカリキュラム。

ようやく解放されての日常生活スタート!と思っていたが、

放課後に僕らは絶望に堕とされることになった。


終礼後、なぜかクラス全員で屋上へと移動させられた。

何が起きたのかよくわからない僕らは促されるがまま屋上へ行くと、応援団と生徒会の役員が待っていた。

当時の僕からしても、今どきこんなんあんのかよ。って感じの長ランを着ていた応援団の姿は、正直とてもダサいものにしか見えなかった。

えげつないほどメンチ切ってくる応援団らの説明によると、どうやらこれからしばらくは毎日ここで校歌の練習があるらしい。

許可が出た者から帰ってよい、と。

希望を胸に入学した直後の子羊たちに、初っ端から威嚇で攻めるのは効果抜群だ。

ただ、僕はそもそも小学校からずっと空手をやっていたし

特に小学校高学年からは大会に出てメダルやトロフィーを獲得出来なかったことがなかったし、

長年に渡り県の強化指定選手にも選ばれてきたことで自信もある。

応援団の面々を見るが、メンチ切ってるけど体格も身体の動きも、まったく負ける気がしない。

メンタルはクソ弱いくせに、こういう威嚇は1ミリも響かなかった。

そんな、変なところで強心臓を発揮しだした僕はなんとこのイカつい空気の中で

誰よりも大きな声で校歌を熱唱することにした。

感情のままに動くならばこの場で反抗的な態度を取るのが正解だ。

ただ僕は、この場からさっさと帰りたかった。

その想いで大声を張り上げた。

小学校から応援団長をやってきたこともあって、声のデカさだけはとにかく自信があった。

この場で早く帰るには、デキるヤツアピールをすればいい。

そう思って、団員が目の前に来た時だけわざとらしくデカい声をあげてやった。

「おまえ、帰ってよし」

早速声がかかる。

よし。計算通りだ。

この調子で残りの数日も誰よりも先に帰ってやる。

そう思って挑んだ2日目。

まさかの暗唱。

覚えてない。

入学数日で校歌暗唱なんて無理があるだろ!

そう思いながら2日目はうろ覚えでそれっぽく、ただし誰よりも大きな声で歌った。

暗唱出来ないと帰らせてもらえず、2日目は最後まで残るはめになった。

3日目。

めちゃくちゃ必死に歌詞を暗記してきた。

3日目からは校歌はなくなって応援歌になった。

覚えた意味なし。ちーん。

最後まで残らされた。

くそっ。

4日目は応援歌を暗記してきた。

今日こそ完璧だ!

まさかの違う応援歌だった。

最後まで残らされた。ちーん。ちーん。

そして迎えた最終日。

もはやなんも覚えずに挑んだ。

これまでの校歌や応援歌を暗唱。

コレなら早く帰れる!

ちょうど団長が目の前に来た。

これまで以上に張り切って歌った。

団長が俺に向かって叫んだ。

「うるせぇぇぇぇぇぇ!!!」

ええぇぇぇぇぇぇ!?

デカすぎた。

周りが堪えきれず吹き出した。

「笑うなーーー!!!真面目にやれぇぇぇぇぇ!!!」

なぜか俺がめちゃくちゃ怒られた。

高校生活は理不尽だ。

ここに三年も通わなきゃ行けないのか。

落ち込みながら最後の歌唱練習を終えて帰った。




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