ファーゴのどこが好きか
This is a true story.
こんなキツいアカウント名にしてるだけあって、人に何の映画が好きか聞かれたらなるべくコーエン兄弟って答えるようにしてるんですが、大抵の場合「は?何それ?」っていう顔をされます。
「は?何それ?」って顔をされる確率を下げるため、なるべく『ファーゴ』あたりを挙げます。
それでも「は?何それ?」って顔をされたらお手上げ。寒いのと暑いのどっちが好き?って話に切り替えます。
少しでも興味を持ってもらえたら、雪深い田舎町で起こった殺人事件を妊婦の警察署長が捜査する話だよ、とざっくり説明します。
さて、ファーゴのどこが好きかという本題に入る前に軽く自己紹介しておきたいと思います。
三角コーエン兄弟(現・新宿中央コーエン兄弟)と名乗るわたくしは、三角公園という名前から一部の方はピンとくるかもしれませんが、あの都道府県の出身です。
伏せ字なしで書くとBANされるので察してください。
その中でもわりと悪名高い地域で生まれ育ちました。
伏せ字なしで書くとBANされるので察してください。
「1000円で筆おろししてくれると噂のタバコちょうだいおばさん」や「自販機ぶん殴り外国人」、「4月から12月まで半裸&路上で義眼取り外しおじいさん」などが出没する地域でした。
私はと言えばふつうのウルトラ貧乏家庭に生まれ、ふつうにミニ四駆も遊戯王カードもベイブレードも買ってもらえなかったので、自分と同じような貧者の子たちと疲れ死ぬまで鬼ごっこをするショタ時代を過ごしました。
昔付き合ってた人(他地域出身)に「貧乏は状態のことじゃない、一生治らない病気だよ」と言われたことがあります。
私はこの子はなんて文才があるんだ、と思いました。
ただ文章を組み立てるだけなら本を読んだりすれば誰でも会得できますが、あのセンスは頑張ったらひり出せるというものではありませんでした。
その子が言う通り、私の住んでいた町では皆が極限まで車高を低く改造したBbかワゴンR(たぶん指定車輌)を乗り回し、誰に断りもなく18〜22歳で勝手に中出しして子供を産んだり堕ろしたりして因果を巡らせていました。
私は中出しはしたいけどこの町で死ぬのはイヤだと思いました。
とは言え中出しと無縁の陰惨な青春時代を送ってきたので、その部分は杞憂でした。
◆
中学1年生のときのことです。
ヤンキーの同級生たちが中出しに明け暮れてたある日(1件のブログで中出しって言えるのはあと1回です)、私は近所の古本屋に宮ちゃん(同級生。同じ部活。仮名)がいるのを見つけました。
古本屋から出てくる宮ちゃんの手には中綴じの雑誌が入ったビニール袋が握られていました。
次の瞬間に宮ちゃんと目が合いました。
宮ちゃんはカチカチに引き攣った表情で「おう、何してるん」と言いました。
当時の私たちが買う雑誌と言えば背表紙のあるジャンプやマガジンなどが一般的でした。中綴じのヤングジャンプやスピリッツを読むようになるのはもう少しあとのことです。
「宮ちゃん、何の漫画買ったん?」
「え、別にふつうのやつ」
宮ちゃんは少しだけ怒っていました。
「なぁ、ファミマ行こうや」
宮ちゃんはファミマで私にフローズンを奢ってくれました。
宮ちゃんはファミマの駐車場で、さっき古本屋で買った雑誌を見せてくれました。
『コミック快楽天』
表紙にはおっぱいがほぼ全見えの女の人の絵が描かれていました。
「なぁ、あとで読んでいいからこれ買ってたん誰にも言わんとってな」
「うん、わかった」
私は翌日、部活のほぼ全員に宮ちゃんが快楽天を買ったことを言ってしまいました。
宮ちゃんはしっかりめに皆からイジられてしまいました。
◆
小学6年生のときのことです。
私と西田(同級生。同じクラブ。仮名)で、いっしょに宮ちゃんの家に遊びに行きました。
宮ちゃんの家は共働きだったので、部屋で大騒ぎしながらスマブラをやっても無問題。
西田(ガサツ)は、突如として宮ちゃんの学習机に興味を示しました。
手練の泥棒よろしく、宮ちゃんの学習机の引き出しを手際よく開けていきます。
「おい、やめろや!」
あんなに楽しそうにネスを操ってPKサンダーしまくってた宮ちゃんが、0→100でブチギレています。
宮ちゃんの学習机には袖机とは別に、椅子の正面のところに小っちゃい引き出しが付いていました。
西田は小っちゃい引き出しを勢いよく開けました。
そこには、ピンクチラシ(そういうお店などのビラ)がパンパンに詰め込まれていました。
「やめろって!それお父さんのやから!」
私はそれはさすがに無理があるやろと思いました。
当時ピンクチラシにはふつうにおっぱいが載っていたりしたので、見れるおっぱいは見れるときに見ておきたい我々としては、正直に言って宮ちゃんの気持ちは分からないでもありませんでした。
しかし家を一歩出れば小学生と言えど兵(つわもの)。他人に弱みを見せてはいけないのです。
翌日から宮ちゃんは女子からとんでもないエロ人間というレッテルを貼られることとなりました(スポークスマンは西田)。
◆
小学5年生のときのことです。
宮ちゃんは種類のよく分からない中型犬を飼っていました。
私はときどき宮ちゃんの犬の散歩に同行しました。
近所の河川敷を歩くのがいつものコースです。
ふだん何を食わせてるか分かったものではないのでめちゃクサイ宮ちゃんの犬の散歩をしていると、私たちはランニングコースの端っこに大量の本が捨てられてるのを発見しました。
洋モノのエロ本(雨風にさらされて最悪の状態)でした。
「うわ、何じゃこりゃ!変なの!」
クソガキ丸出しの私はエロ本を蹴るなどして尊厳を保つことに必死でした。
宮ちゃんもいっしょにエロ本を蹴ります。
犬は散歩できてゴキゲンです。
その後もしばらく河川敷を歩きながら犬の排泄物を処理するなどしていたのですが、私は宮ちゃんのお腹がボッコリ出ていることに気付きました。
宮ちゃんは長身のガリガリです。肋骨浮きまくりで、お腹が出てるなんてあり得ないことです。
「宮ちゃんなんかお腹出てない?」
「いや、別にふつうやで」
宮ちゃんは少しだけ怒っていました。
「いやいや、お腹出てるやん!」
1mgのデリカシーも持っていなかった私は思いきって宮ちゃんのフリースをめくりました。
ボトボト!と宮ちゃんのお腹から落ちたのはやはり、さっきランニングコースに捨てられていたエロ本数冊でした。
この町でお腹に雑誌を隠すのはバタフライナイフで刺されるのを防止する用途だけのはずなのに。
宮ちゃんは「絶対だれにも言わんとってな!」と懇願してきました。
私は学校でみんなに言ったかどうかは忘れてしまいました。
◆
私は宮ちゃんに当時謝れなかったことがあります。
20歳すぎまでは連絡を取り合ってたのにだんだん疎遠になって今や連絡先も知らんけど、もしかしたら天文学的な確率でツイッターをフォローされてるかもしれないので、一か八かここで謝りたいと思います。
宮ちゃん、実はな、おれもあの古本屋でエロ本買ってたんよ。
しかも読んだあと家に置いとくのが恐いから、読むたびに隣のマンションの塀にブン投げてたんよ。知らんおっさんに1回めちゃめちゃ怒鳴られたで。
フローズンもろたのに約束破ってごめんな。
でもな、ピンクチラシは集めてないねん。これはほんまやねん。
だって同じ種類のピンクチラシ大量に保管しとくってだいぶ意味わからんやろ?
別の種類のやつ1枚2枚とかやったらまだ分かるけど同じ種類を数百枚はちょっとだけ引いたで。ごめんな。
20歳ぐらいのときに西田の家でいっしょにパルプフィクション観たりしたけど、あのあとおれ結構映画好きになったで。観るジャンルは偏ってるけどな。
コーエン兄弟って人の映画がめっちゃおもろいんよ。
最初に観るのは『ファーゴ』ってやつがいいかな。
雪深い田舎町で起きた殺人事件を妊婦の警察署長が捜査する話なんやけど…もし今度会ったら説明するわ。
まじくそ裏切ったくせに片手間にブログに書いたうえ最後だけフワッとフタ閉めてええ感じに見えるかもしれへん終わり方しようとしてんねん。ほんまごめんな。
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