『アリスとテレスのまぼろし工場』監督:岡田麿里【感想】

開始して五分も経たずに押しつけられるのは、あるいは思い知らされるのは『難解さ』だろう。
突如、製鉄炉が爆発したかと思えば、空が大きく割れ、声高に見伏市(今作の舞台)に閉じ込められたと叫ぶ人がいる。

しかし主人公である菊入正宗と、友達三人は━━否、町の人はみな、特に気にする素振りも見せずに生活する。
━━なんてったって、爆発のシーンから、説明もなしに時間が数年あるいは数十年飛んでいた。
後で理由は明かされるので問題はないのだが、やはり疑問符は浮かんでしまう。
なんにせよ、最初からこんな『難解さ』がぶつけられるのだ。

伏線はちゃんと、後半の方で回収されていくのだが━━それがまあ拾いにくい。

度が過ぎた危険な遊びを繰り返す主人公たち、ヒロイン(睦実)が主人公を製鉄炉に連れていった理由、ひび割れる人間とひび割れない人間の違いなどなど━━ちゃんと明示されてはいる。いるのだが……やはり、拾いにくい。

おそらくこれは、挑戦的な世界観にめまいを起こしてしまうからだと思う。
現実? 見伏? 箱庭? 仮想世界? などと考えてしまい、物語の核の部分をあたら逃してしまっているのだろう。
ちなみにさっきの正解は、『製鉄炉の爆発で本来あった見伏(冒頭で主人公が勉強していたシーンの見伏)が壊滅し、それを悲しんだ神さま(≒製鉄炉)がもっとも見伏がよかった時代を生み出した』である。
つまり、冒頭の主人公たちと、作中の主人公たちは厳密には同一人物ではない(笑)
爆発を見た主人公は、ヒロインである睦実と結婚している。

これだけ説明しても、いまいちぴんとこない人はいるだろう。だが、この物語を楽しむためには『割りきって』考えなければならない。
超常的な存在がいると、納得できなくとも、受け入れなければ始まらないのだ。
そうしてやっと、『岡田麿里』を味わうことができる。

物語は非常に面白い。だがしかし、『世界観』に足を取られていたのではないかと思ってしまう。
言ってしまえば悪いが、かなり創作物に触れてきた人間向けな映画だ。

ただまあ『世界観』をあまり深く理解せずに楽しむ方法もある。むしろ、そちらを推奨したいぐらいだ。
なにせ『世界観』のせいで、とても大切な部分━━『岡田麿里』を見落としてしまうのだったら、やはり優先してほしいのは後者だろう。

先ほどもちらっと触れたが、ヒロインである睦実が主人公を製鉄炉に連れてった理由と同じだ。

━━睦実はずっと主人公である菊入正宗のことが好きだったのだ。

これが『世界観』の咀嚼に集中していて、食いあぐねてしまう。
二人がひび割れなかったのも、それが理由だろう。━━なにせ、元々、変化などしていないのだ。
ただ自覚しただけ。
気にくわないは、気になってしまうに通じるのだ。
これは非常にマストな事実であるのに、なんだかふわっとしか語られない。
おぼろげな記憶なのであまり確かなことは言えないが、キスシーンの前後辺りはよく注視してほしい。たぶんちゃんと言ってる。
けどまあキスシーンが激しすぎて、前後の記憶なんか全部ぶっとんでしまうのは仕方ないと思う。実際、私もちょっと印象が薄い。

気がついたらキスしてて、気がついたら五実に見られていた。そして物語は佳境へと至る━━。

総合的な感想は非常に面白いなのだが、それ以上に惜しいなという意見だ。
『世界観』の理解は確かに物語の面白さを底上げしてくれるのだが、『難解さ』は取っつきにくさを生み出してしまった。
一度見て「わかんねー」と思ってしまった人は、きっともう一回見ることを躊躇うだろう。
だからこそ、本当に惜しい。もっとも、どうすればよかったなんて案を出せはしないので、嘆くことしかできないのだが。

けれども、巷に転がっている解説なんかをちらっとかじりつつ、可能ならばもう一度見てくれば嬉しく思う。
私も、ラストのやけに印象的に映されたポニーテール(ワイヤーテールかもしれない)の効果がよくわからなかったので、誰かの知恵を頼ろうと思う。(……水引がどうたらみたいなことだろうか?)

あと個人的に、睦実の父親まわりの掘り下げはもうちょっとほしかったなと感じる。
そこはパンフなんかを買えば補足されるのかもしれないが。━━といったところで、今回の感想は閉じさせていただきます。

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