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日本人形の記憶

仕事からの帰り道、遠くに目が行った。

その先で、赤い着物を着た女の子が
手毬をついている。
近くにはお爺さんが椅子に座っていて、
その女の子を優しく見守っているようだった。

その時はそれほど違和感もなく、
今時少し珍しいなと思っていただけだった。

それから特に何もなく数日を、
いつもと変わらなく過ごしていた。

夜になって眠りにつこうとした時、
不意に数日前の赤い着物の女の子の事を
思い出していた。

あの時は特に何も思わなかったが思い出して見ると、どこかで見たことがあるような気がしていた。

夢を見ているのか、何処かの田舎にいる。
かなり長閑な場所で虫取りをしているようだ。
自分の子供の頃の記憶なのだろうか?

その場所の近くにある家に女の子が住んでいた。
そういえば、よくその女の子と遊んでいた気がする。
赤い着物を着た女の子。

一緒に池などに虫を取りに行ったり、
川などで泳いで遊んでいる。

気がつけば朝になっていた。
あの女の子は誰なんだろう?
今のは自分の記憶なのだろうか?
覚えていない、記憶がハッキリしない。

でも、確かに何処かで見た記憶がある。
あの顔立ちは間違いなく今も記憶している。
最近、見たような気がするのだ。
だが、何処の誰だか思い出せない。

また、あの女の子と一緒に遊んでいる。
二人とも泥だらけだ。
いつも二人一緒で女の子はとても嬉しそうに、
微笑んでいる。僕も笑っていた。
そういえば、いつも二人だけで遊んでいる。

気がつくと朝になっていた。
でも、これは本当に全てが夢なのか?
赤い着物を着た女の子が、
今も確かに記憶に残っているのだ。
何かを伝えようとしているのだろうか?

いつもの通り道、また赤い着物を着た女の子が、
手毬をついているのを見た。
これは夢ではないはずだ。
いつもの通り道なのだ、現実のはずだ。

何となく目が離せなかった。
突然、その赤い着物を着た女の子が、
こちらに振り向いた。
!!!

知っている!
あの女の子は子供の頃に遊んでいたはずの
赤い着物の女の子だ。

だが、あり得るはずがない。
一緒にいた時は僕は子供だった。
僕だけが年齢を重ねたのか?
あの記憶がおかしいのか?

夢が現実かわからないまま、
僕は混乱しながら帰路についた。

その夜、また長閑な田舎の風景に、
僕は溶け込んでいた。

小さな男の子が一人で立ち尽くしている。
一人だけだ。
いつもの女の子が何処にも見当たらない。
よく見ると泣いているように見える。
やっぱり泣いているみたいだ。

急に記憶がフラッシュバックした。
あの赤い着物を着た女の子は亡くなったんだ。
一緒に遊んでいた時に女の子だけが池に落ちて
僕は何も出来なくて泣いていたんだった。

僕はショックのあまり記憶を何処か奥の方に、
押し込んでいたのかもしれない。

目が覚めた時、もう一つ思い出したことがあった。
家の片隅に置いてある日本人形、その日本人形の顔が
赤い着物の女の子と瓜二つだったのだ。

子供の頃の失っていた記憶と、日本人形の赤い着物や顔の記憶が混雑していて自分の記憶なのかどうか、分からなくなっていたんだ。

赤い着物の女の子は日本人形を通して、
僕と過ごした楽しかった記憶を思い出して欲しかったのかもしれない。

改めて見た日本人形の顔は、
どことなく笑っているように見えた。

このイラストはつぼたこうすけさんにお借りしています

https://note.com/kosuketsubota




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