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『デス・プリ』世界を殺せる力に触れた凡人の様は醜悪で喜劇だという話

■紹介(POP)

古井戸に落ち行方不明だった幼馴染が、13年後、魑魅魍魎が跋扈する地下世界の女王となって戻ってきた。そして「世界征服し王様になった『たー君』のお嫁さんになる」という夢のため、彼女は世界征服を決意する。果たして事なかれ主義のたー君は彼女を御せるのか? 世界を殺せる力に翻弄され、狂乱する、英雄なき醜い豚どもの愛すべきブラック・コメディ!

■基本情報

著者:吉田蛇作
巻数:全 3 巻

■個人の感想

Destruction Princess、直訳「破壊の王女さま」な『デス・プリ』という作品。

地下世界から突如戻ってきた無邪気な幼馴染(JK)が、「たー君のために世界征服してあげる」と至極イカれた事を言い出した。
大衆を前に「たー君王国」の樹立宣言。やばい化物を地下世界から多数召喚して日本を征服後、多国籍軍との抗争の末、日本列島が焦土と化す悪夢を見た、事なかれ主義のたー君。何としても止めようと決意するものの、彼はヘタレであるがゆえに、彼女を命がけで止めるだなんて事もなく。
男のためになると信じ猛進する王女、泣きすがる男、特権渇望、保身、豹変、威を借るクズ・・・・・・世界を殺せる力に触れた俗人共の狂乱っぷりを、ひたすらコミカルに描ききったパイオツ作品である。

ちなみに、地下世界を征服済みの幼馴染王女みり子がシメた大物としては、以下の通りである。
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1.町内会長
2.日本国内閣総理大臣(※2004~2006年当時)
3.アメリカ合衆国大統領(※2004~2006年当時)
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2と3について、特に2は外見が似てたりするものの、意識高い名言的なセリフを吐いたり、キメた仕草を見せたりなんかはしない。ただひたすら、下品に、俗人的に、みり子に抑止力を行使しようとしたり、一緒に征服しようぜとほざいたりする。
この作品には、本当に英雄が存在しない。高度な知性を持っていながら同じ歴史を繰り返す、未熟で、出来損ないの人間の姿そのものが、この作品を形作っている。いや、そんな小難しい表現をするのもどうかというぐらい、イカれた奴らの黒い喜劇が、行動から理解そして反応に至るまでの「間」を上手く利用した表現力でもって描かれているのだ。

なぜ自分は情報ゼロの状態でこの作品を買ったのか未だに謎だが、よくやったと絶賛したいぐらいには、ゲラゲラ笑えるブラック・コメディだと個人的には思っている。パイオツが気にならない方にはおすすめ。