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『花やか梅ちゃん』久しぶりに本を手に取った時の切なさが尊くて

■紹介(POP)

3姉妹、もとい未亡人と姉妹の3人家族が経営する花屋すずらん。
ゆるゆるとした生活が、長女梅の黒スーツのサボりクズリーマン桐山への一目惚れで一変することに。
笑顔の中で交錯し出す隠れた「家族」への思い。
ただの毒薬それとも良薬?
時は動き出し、今日もクズ男は花の蜜を吸う。
ほんのりビターで温かいハートフル・コメディ4コマ。

■基本情報

著者:師走冬子
巻数:全 3 巻

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■個人の感想

師走冬子先生の作品とは、『スーパーメイドちるみさん』からの付き合いでして、『あおいちゃんとヤマトくん』『泊まりにおいでよ』、最近の『あいたま』『奥さまはアイドル』に至るまで、いつも楽しく拝読させて頂いておりますという感じなわけですが、今回はその中で一番に推したい『花やか梅ちゃん』をご紹介します。

当作は花屋すずらんを舞台に、血の繋がりのない母、妹と住む梅ちゃんと、クズリーマン桐山を中心に、人としての成長、育む恋愛、 家族愛を描いたヒューマンドラマ系のコメディ4コマになります。
「ヒューマンドラマ系」と聞くと、大抵の方がシリアス強めの、重苦しい読後感に襲われるものを想像されるかと思うのですが、当作は全然そんな事はなくて、まぁ皆無とは言いませんが、重苦しい部分をしっかりコメディで包んで出してきているので、肩肘張らずに楽しく読めます。

コメディについては、
●フェロモン放出天然美女の未亡人「春巻桜」
●守銭奴の小学生株主「春巻桃」
●花知識に全振りして美術センスゼロの「春巻梅」
●超絶貧乏のクズ思考サボリーマン「桐山勇吾」
これだけ揃って組み合わせれば、そりゃもう面白くないわけなかろうと。特に桃と桐山の絡みは良いですね。桃は経理を任されているので、クズ思考を持つ桐山とはよく衝突する訳ですが、生意気な口調で突っかかる様や、最後の桐山の貧乏に負けた感の流れが、私的にはすごくお気に入りです。生意気な子供を動かすのがとてもお上手だなと思います、師走冬子先生。

そして忘れてはいけない「ヒューマンドラマ系」の部分。コメディに包まれているとはいえ、根幹がしっかりしていて、伝えるべき所はしっかり伝える作りになっているため、共感できなくて台無しになるなんてことにはならないです。家族愛というテーマは、春巻家の特殊構成、梅視点だと母親と死別し、父親が子連れの女性と再婚し、父親も亡くなった状況という、かなり消化が難しいものだったと思うのですが(桐山家は別の意味でアレ(笑))、本当に上手く重苦しさを消しつつ、その背景を飲み干した上で、じわりと効いてくるような、そんな素晴らしいテイストを感じさせてくれました。
特に印象に残るシーンはやはり、象徴的なものが自身の手から離れた時の梅と桐山のやり取りでしょう。感想を書くために見直しをしたのですが、この作品に触れた15年前と変わらず、自然と涙が出て、言葉にならない気持ちでしばらく動くことができなかったです。

多分4コマコメディの中で一番最初に泣かされた作品だと思います。古い作品ですが、電子書籍でお手に取って頂けるとうれしいです。