すべてを覚えている

 秋に刊行する短篇集のゲラを直すために、雑事から逃げ出して神戸の実家に籠もることにした。もちろんこれまでもときどき帰ってはいたものの、数日にわたってしっかり滞在するのはたぶん三十年ぶりのことで、幼いころに過ごした場所の変わりようと、変わらなさを味わっている。

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