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箱船

 長年の研究成果が実り、ついに人類は冷凍睡眠技術コールドスリープを確立した。人体を超低温で長期間保存し、希望者の指定した時期に目覚めさせることで時間を、いや、時代を超越する技術である。これは国際連合も資金を拠出している巨大プロジェクトであり、長らく不治の病と闘い続けている医療者、そして当事者たちの悲願でもあった。
 もちろん、その安全性が確保されるまでの道のりは容易たやくはなかった。
 冷凍した瞬間に肉体が砕けてしまった者がいた。冷凍してから数年後に解凍したものの意識が戻らなかった者もいた。ようやく無事に解凍できたのにも拘わらず、自身の記憶のずれに苦しみ、自ら命を絶った者もいた。
 科学者たちの予想に反し、なかなか研究は進まなかった。何度も失敗を繰り返し、その間に多くの命が失われた。一時はこの研究自体を止めるべきだとの意見さえ出された。だが、それでも科学者たちは諦めず研究を続けた。
 研究が開始されてから十数年を経たのち、ようやくコールドスリープは完成した。
「ついに私たちは未来の技術を使う手段を手に入れたのです。これは科学の勝利であり、また人類の希望でもあります」
 主任研究者は記者会見で誇らしげにそう言った。

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