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今夜、うちは

illustrated by スミタ2022 @good_god_gold

 デスクを仕切る低いパーティションの向こうから、甲斐寺の大きな溜息が聞こえた。
「主任、どうしたんですか?」
 伊福は首を伸ばして甲斐寺のデスクを覗き込む。
「いやあ、妻からメールが来たんだけど、今夜さ」
 妙に疲れた口調だった。まるで全身の力が抜けたように、椅子にだらしなく腰を埋めている。ダラリと下げた手にはスマホ握られていた。
「どうやら今夜、うちは鍋らしいんだよ」
「それって何か問題なんですか? 鍋、いいじゃないですか」
 いぶかしがる伊福に向かって甲斐寺が力なく首を振った。
「だって、うちが鍋なんだぞ。どうやって入るんだよ。上からか? だいたい雨が降ったらどうするんだよ。ふたはあるのか? 水は張ってあるのか?」
 ウンザリした顔で甲斐寺は言う。
「えーっと、それは土鍋なんですかね?」
「知らんよ。妻はいつもオレに相談しないで勝手に決めるんだよ。あーあ」
 そう言って甲斐寺は再び大きな溜息をついた。
                   (了)

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