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次の数秒に

 磁場変調マグネティックを介した空間投影像プロジェクションは予想していたものよりも明らかに鮮明で、輻輳会議ミーティング各監視端末モニタからも驚嘆の声が上がった。
「ポイントAF975Mのリアルタイム映像です」
 北米の監視端末が説明を加える。
「可能性はあったのですが、残念ながら」
「やはりいなかったか」
 不意に映像が歪み、激しいノイズが走った。高濃度の塵気流が視界を塞いだのだ。
光学回路オプティカルから赤外線走査サーモに変更せよ」
 北米監視端末が淡々と指示を出すと、遙か遠方に存在する無人操作所では計測器のランプが次々と灯り、機動軸モーターが低い唸り声を上げると、瞬時に撮像デバイスが変更された。直接現地を訪れることは不可能になっているため、今やあらゆる調査活動リサーチはこのように遠隔操作リモートのみで行われている。
「AF975Mか」
 たちまち空間投影像が切り替わり、海域全体が縮小された赤外線走査映像となって表示された。
「東アジアブロックだな。スプラトリー諸島を中心にした南シナ海南部だ」
 ロシアの監視端末が答える。
「あのあたりはまだ汚染もましかと思っていたが」
 欧州南部監視端末が諦めにも似た声を出した。
「地下に逃げない限り生き残れませんよ」
 二〇xx年以降、急激に悪化した自然環境はわずか数年のうちに惑星を死で覆い尽くした。地上で生存できなくなった人類は各行政地区ごとに地下数百メートルにものぼる巨大な保護穹窿シェルターを建設し、かろうじて生き延びている。
 環境状態を計測するための検出器センサーが世界中に張り巡らされ、その全てが増幅型量子AIに接続された。七百万エクサプロップスを誇る超高速計算機を並列接続したベースの上で動作するAIは全人類が数千兆年かけても終わらない計算を一秒以内に達成する。この膨大な電力を使う計算機を駆動するには分離元素発電が必須だが、それに使われる二酸化炭素は、皮肉なことに今の地表には無尽蔵に存在していた。
 様々な環境要因が助変数パラメータとして次々に考案され、僅かな望みを賭けてAIに入力されたが、人類には滅亡の道しか残されていないことが明白になるばかりで、研究者たちの間には絶望の空気だけが広がった。
「十数年先の滅亡を数十年先に延ばすだけだ。そこに何の意味があるのか」
 なんとか起死回生の道を探る者たちを横目に、いかに美しく滅亡するかを考え始める研究者も現れる始末だった。

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