口垂れ糸
出かける直前になって三葉里桜はちょっぴり迷ったあと、玄関に置いた皿から一本のそうめんを取り上げて口にくわえた。昨夜の食べ残しだ。玄関口の姿見に顔を映し、そうめんが口の端からきれいに垂れているかどうかを念のために確認する。
「ちょっと長いかな」
ぶらりと垂れ下がったそうめんがなんとなく長すぎるように感じたので、端を囓って短くした。もう一度鏡に向かって笑ってみる。まだ長い。もう一口囓ってからくわえ直した。うん、これでよし。垂れ下がった端が顎のラインからほんの少し飛び出すくらいがちょうどいいのだ。
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