推しと古書

 文学フリマが近づいてくるとここに何かしら書くのが毎年の決まりごとのようになっている。今年も出店が決まっていて、さてどうしようかと思案した。これまでつくったものがたくさんあるから、それらを並べるだけでもブースとしての格好はつくのだけれども、やっぱり何かつくりたいのだ。
 最初に参加した時にはコピー本をつくったのだった。キンコーズでコピーして折ってホチキス留めする。折ったまま切らずにアンカット本としてそのまま販売した。あれはもうどこにもない。今はKindle版としてAmazonに載っているだけで、紙の現物は僕の手元にもない。

持っている人は超レア本を所有していることになる。コピー本だけだと心許ないから文庫本も二冊つくって同時に並べた。せっかくだから「本物の本」のようにしようと、ISBN番号を取得した。これがネコノスの出版部門の始まりになるわけだから不思議なものである。

そのあとは、いわゆる同人誌然としたシンプルな『異人と同人』をつくった。

今考えてみると、書くものがぜんぶ世界配信されているベストセラー作家の燃え殻さんや『嫌われる勇気』の古賀さん、直木賞をとった川越宗一さんなどに参加してもらっているというめちゃくちゃ豪華なラインナップだった。よくもまあ僕なんかのつくる同人誌に原稿を寄せていただけたものだ。
 そのあとは同人誌なのにハードカバーの『雨は五分後にやんで』(今は文庫になっている)だとか、

とにかく厚さだけを追求した『ココロギミック』だとか、造本の遊びに走ってきたきらいがある。

 さて、今回はどうしようか。あれこれ考えたあげく、造本に凝るよりも文学フリマらしいシンプルなものをつくることしにした。
 タイトルは『推し本』。いろんな人に声をかけて、いま推しているもの、あるいはこれまでで一番推してきたものを短い文章で寄せてもらい、ホチキスで留めて一冊にまとめるのだ。

 人が自分の好きなものについて夢中で語っているのを聞くのは、それが何のことなのかまるでわからなくても、それなりに楽しい。たくさんの人の「推し/好き」が一冊にまとまったら、それはなんだかハッピーな本になるような気がするのだ。厳密に言えば、本というか、ホチキスで留めた紙束なんだけど。
 いま、五十人くらいに声をかけているので、半分くらいの人がちゃんと締め切りを守ってくれたら、それなりのボリュームになるような気がする。
 『推し本』。絶対に面白いはずだから、ぜひ文学フリマの会場でお手におっていただけると嬉しい。

 それはそれとして、古書店をやりたくて、ぼんやりと物件を探している。いま僕が毎日仕事をしている事務所は雑居ビルの中にあって、それはそれで快適なんだけれども、昔と違って人が集まって打ち合わせをすることも減っているから、空間が無駄なのだ。だったら空間そのものを他の何かに活用できないかと考えると、事務所の書棚にささっている大量の本を並べる古書店がいいんじゃないかと思ったのだ。
 たいして客は来ないだろうから、僕は隅っこでいつもどおり原稿を書いていればいい。そんなことを考えている。
 誰かいい物件があったら教えてください。

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