笑った理由
照明を落として薄暗くなった会議室の中にいきなり大きな笑い声が響き渡った。
「わはははははははは」
それまでグラフだの表だのが映し出されたスクリーンをうとうとしながら見つめていた出席者たちは、一斉に顔を声のほうへ向ける。
役員席に座る一人が体を丸めて机の陰へ隠れようとしている。だが、そうやって隠れようとしているのに、なぜか笑うのを止めるどころか、ますます激しく笑うのである。
「うひゃひゃ」
隣に座っている役員も釣られたのか、いきなり体を抱え込むように縮こまらせた。
「ぶふふふふふ」
同じように笑い始める。
「ひゃはははは」
「てへへへ」
何人かの役員が次々に笑い出したが、どういうわけか、その誰もが肩を狭め、ぎゅっと体を丸めようとしていた。
「なんだね、君たちは。何を笑っているんだ」
「すみません」
最初に笑い始めた役員が顔を上げて恥ずかしそうな表情を見せた。
それなのに笑い声は止まらない。
「いったい、どういうことだ」
社長は怪訝な顔つきで首を傾げた。こちらを見ている役員は口をぎゅっと固く閉じて、体を強張らせているのに、笑い声だけは彼から聞こえ続けているのだ。
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